4



 ディランにとって、マークと過ごした日々は何よりも大切である。できればずっと一緒にいたいが、そうはいかない日もありはする。本国でディランとマークは同じミドルスクールに通っていたので、基本的にはディランの願いは叶った。しかしながら、長期間の休みに、サッカーの練習もないと、マークは家族旅行に出掛けてしまうことがごくたまにある。それでも淋しそうな顔をするディランに負けて、マークだけが残ることも最近では多くなってきていた。しかしながら成績のよいマークが学校からの推薦で、特別に組まれたサマーキャンプに参加することになった今年、ディランは三週間余りを淋しく過ごさなければならなかった。電話やメールは欠かすことがなかったが、マークのいないフィールドは、ディランにとって酷く荒涼として見えた。
 そうしてマークが帰ってくる日には、朝からソワソワしてして仕方なかった。夕方頃に帰宅したらその足でディランに会いに行くとマークは言っていたが、待ちきれずに結局マークの家まで行ってしまった。迎え入れたマークの母親は「サプライズをしましょう!」と言って息子の部屋にディランを通した。やがて車のエンジン音でマークが父親の迎えで帰ってきたことを知ったディランは、窓から外をのぞき見た。久々のマークが大きなバッグを持って家の前に降ろされていた。たった三週間、それでもディランにとっては怖ろしく長い時間である。マークが変わってしまっていたらどうしようか、などと栓のない考えが浮かんでは再会の喜びに水を差した。
部屋の中でなおも落ち着かないディランは(元々彼はマークと違って落ち着いていることが苦手なのである)、閉まっている扉の向こう、家族にただいまを言うマークの声を聞いた。ドサリと荷物を放り投げて次に「行ってきます」の声。母親に「どこに行くの」と問われて彼は「ディランの家」と答えていた。ディランはマークが約束を守るのをくすぐったい思いで喜んだ。しかしこのまま擦れ違っては意味がないと、ドアノブに手をかけた。

「その前に荷物を部屋に置いてきなさい」
 母親の注意に渋々返事をしたマークが、階段を上る音がした。ディランはどういう顔で相手に会えばいいのか分からなくなっていた。様々な種類の喜びがごちゃ混ぜになっている内に、とうとう相手が取っ手を掴んだのをディランは感じた。その時自分が未だに扉の目前にいたことに気付き、ディランが下がろうとする。しかし相手の方が早かった。扉が開かれ、その勢いにディランは額を強かに打ってしまった。
「Ouch!!」
「!?」

 開いた扉の隙間から侵入したマークは、扉の向こうでしゃがみ、額を押さえているディランを見つけた。

「ディラン!!」
 荷物を再度放り投げて駆け寄るマークは、膝を折って相手の顔を覗き込んだ。苦笑しているディランは「お帰り、マーク……」と口にした。

「大丈夫か?!」
「マークがキスしてくれたら大丈夫」
 ジョークで言い放ったにも拘わらず、真剣な表情をしているマークはディランの手を避けて額に口付けた。相変わらず大まじめな顔で「治ったか?」と聞いてくるマークに抱き付いたディランは相手の頬にキスを返すと、「マークは全然変わってない!」と感動を漏らすのだった。


戻る
Top