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 遠い人だ。円堂くんは遠い人なんだ。そういった、漠然とした後ろめたさを感じているヒロトは、エイリアの事件の後、結局円堂に連絡を入れることができなかった。サッカーをしていればいつかきっと会えるのだろうと思考しながら、それだけではない想いが始終彼を苦しめていた。
「お前って表情全然変わらないよな」
「そうかもね」
「でも何か、最近変だってのは分かる」
「うーん……」
「まあお前は年中変だけど」
「それじゃあ変わらないってことじゃないか」
「……早く行かないとスイカがなくなるぞ」
 南雲との会話は、一切れのスイカをちゃっかり手にしている涼野によって遮られた。立つ鳥跡を濁さずのようにスイカに飛びついていった南雲の背中目でを追いかけるヒロトの横、縁側座した涼野は上品にそれを食べていった。
大まかに何でも切ってしまう瞳子がスイカを切っているので、人数分あるかどうか微妙なところだ。いつも熾烈な争いが繰り広げられているが、元ダイヤモンドダストのチームメイトから未だ慕われている(というよりも世話を焼かれている)涼野は苦労もなくいい部分を手にすることができる。対して南雲はいい意味でチームメイトとも容赦なく争っている。目を細めながら夏の夕暮れを鮮やかに映す、見事な日本庭園に視線を戻したヒロトは、再び呆然としていた。
「……………」
 何も言わずに見つめてくる涼野の向こう側に、新たに座したのは八神だった。旧知の仲である八神はヒロトの顔を不愉快そうに一瞥すると、その綺麗な足を組んだ。
「随分参っているようだな」
「君がそう言うなら、そうなのかもしれないね」
 相変わらずな暖簾に腕押し状態のヒロトに今更何をぶつけるでもなく、八神は涼野と同じく上品にスイカを食していた。
「遠いなあ……」
 様々な距離が絶望的なまでにヒロトの前に広がっていた。飛び越えようにも手段はなく、渡ろうにも勇気が出ない。懐かしくも思えてしまう、それでも鮮明な相手を思い浮かべては中途半端に流れすぎてしまった時間を悔やむ。確かに自分らしくもない、と呆れたように溜息を漏らしそうになったヒロトは結局、黒電話の鳴る音と、数分後の緑川の呼ぶ声にそれを阻まれた。重い腰を上げ反転し、足を踏み出す、その一歩が、頭を支配して離れない相手へ繋がるものだと、この時点では知らないまま。


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