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 ぶっきらぼうで生きるのが少し下手くそで、みんなに優しい訳でなく、限定された世界だけで生き、クールに構えていても内面は物凄く熱い。それが今のところのネッパー……熱波夏彦の厚石が知り得ている彼自身である。すっかり がらんどう になってしまったお日さま園で、そこの仕事を手伝ったりしている子供たちは近場の中学校に通うようになった。熱波も厚石も、同じ中学校に通っている。一般の中学生にはお馴染みの風景も、日常も、彼らには慣れないことであった。エイリア学園が稼働していた頃に、最低限の勉強は義務づけられていたのでついていけないことはなかったが、木の安っぽい机で、空調なんてあまり効いていない教室に肩を並べて授業を受けている。休み時間には騒いで、放課後には掃除当番だ。誰がゴミを出すかジャンケンして、エイリアでの上位下位関係なく裏のゴミ置き場まで持っていくことになる。少し古めの、この学校に入れたのは瞳子の一存だった。

「いいところでしょ」
 そう言って校舎を眺める瞳子のには、独特な慈悲深さが宿っていて、普段の厳しい態度を僅か、忘れさせるのである。ただ授業参観になると、全ての教室を周り、お日さま園の家族を鋭い眼差しで見つめた。皆いつも以上に大人しくなってしまうのは必至であった。今までが嘘のような、平和を絵に描いたような暮らしだった。エイリア学園のマスターランクのトップ三が一緒に大掃除をしたり、科学の実験やら家庭科の授業で料理を作っている。先の共闘で他のチームへの偏見もなくなってきていた熱波はそれでも、元プロミネンスの仲間と連むことが多かった。
 校庭でサッカーを始めている者達や、当番で早く帰り、お日さま園の手伝いをする者に分かれ、それぞれが放課後を過ごしている頃、教室に残って古い窓から外を眺めている熱波を見つけた厚石は、彼に近付いていった。何が見えるのかと縁から身を乗り出してみると、サッカーゴールを揺らしている南雲が目に入った。

「晴矢、今日食事当番じゃなかったっけ。さては忘れてるなアイツ。……また怒られるぞ」
「知らせに行ってやらないのか?」
「……向こう、同じ食事当番の八神達が晴矢を見つけたみたい。じきに連れて行かれるよ」
 至極愉しそうに言い放つ厚石を見遣りながら、不思議そうにしている熱波。その視線に気付いた厚石は相手に笑みを浮かべた。

「俺、こういうの憧れだったんだ」
「こういうの、って」
「普通の学校生活。……昔は、あまり外に出られなかったから」
 窓枠を掴みながらそんな事を言いはなった厚石は、同情を求めている訳でも、同意を求めている訳でもなかった。ただ感慨深げに、沈みゆく夕日を惜しそうに眺めている。
「俺、熱波と同じチームに入れてよかったって思うんだ」
「なぜだ?」
 外に視線を戻した熱波が、側の柱に寄り掛かりながら、風に頬を撫でられている。

「熱波は人よりも仲間思いだろ?だから、無条件で熱波に好かれるし」
 そんなことを言って、何気なく笑う厚石に呆気にとられながら、視線を泳がす熱波。その姿に可笑しそうに声をたてた厚石は、開きっぱなしだった窓を閉め、鍵を下ろした。
「相思相愛だ」
「お前はおかしな奴だな」
「みんな少しずつ、おかしな奴だよ」
 生ぬるい風を遮断するように窓を閉めた熱波は、厚石に促されて校庭へ向かい歩き出すのだった。


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