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※18禁小説注意





 なぜ、なぜなんだ。ホリーは以前よりも痩けた頬をひくつかせて、満面の笑みで抱き付いてきた相手を押し返そうと躍起になっていた。自分はこの、少女と見紛うようなリーフ程に睫毛が長いわけでも、可憐なわけでもない。ちょっとしたアイドルよりも可愛らしい、花のようなリーフはその実、誰よりも我が侭で、誰よりも自尊心が強い。初見で愛らしいな、などと油断してしまった自分を今からでも殴りに行きたいと、ホリーは思っている。

「ホリー、ホリー久し振り、どう調子は?俺結構焼けたと思わない?思うでしょ?ボディローション塗ってよ、あと日焼け止め、俺日焼け止めの手につく感じ嫌いなんだよね。だからホリーに会えなくて凄く嫌だった。ホリー!会いたかったよ!俺の可愛いホリー!」
 久し振りと言っても、海組と陸組で昨日一日練習場所を違っていただけである。一気にまくし立てた後、再び堰を切ったように抱き締めてくる腕がどんどん食い込んできて痛い。

「浮気してないよね?」

 途端暗くなる声のトーンに流れた冷や汗が頬を伝い落ちる。浮気などしていない、というかまず誰かに縛られている訳ではないのに浮気という概念は可笑しいと思うのだが、リーフの中ではもう、ホリーは彼のものであると認識されていたので今更否定してもこの女王様のご機嫌を損ねるだけである。得策ではない。
 兎も角、後ろめたさの欠片もないが、逆上したリーフが何をしでかすか分からないので冷や汗は止まらない。周囲は頬笑ましそうに見守っているが、肝心な、脅しのような言葉は彼らには聞こえていないのである。

「まあホリーが俺を裏切るなんて思ってないよ、俺は」
 こめかみに軽いキスをして離れたリーフが、ポケットからボディローションと日焼け止めを取り出す。塗れと言うことなのだろう。さっさと談話室脇のソファーに座ったリーフが差し出してくる足を取って、跪く形でボディローションを塗っていく。甘いピーチシトラスの香りが漂って鼻を通る。朝風呂から上がったばかりらしく、肌が柔らかいし温かい。

「足凝ってる」
 指通りが悪い箇所を解すように力を入れるホリーに、気持ちよさと痛みでリーフは少し表情を変えた。右足を終えれば左足、左足が終われば右腕、そして左腕、と綺麗に、元々の性格から丁寧な仕事で塗りおえたホリーは、もう一本の日焼け止めの蓋を開ける。こういう、ホリーの面倒見がいいところや、仕事や作業の一つ一つが優雅で美しく丁寧なこと、それもリーフがホリーをお気に召している要因の一つである。傅くように足先へ日焼け止めを塗り込んでいるホリーを、満足気に、そしてうっとりと見つめているリーフは飽きることなくその視線を注ぎ続けた。

「はい、終わり」
 最終的に顔まできちんと塗りおえたホリーは、塗り残して白くなっている部分がないか確認した後、日焼け止めの蓋をきちんと閉めてボディローションと共に容器を相手に返した。
「じゃあな」
 立ち上がって踵を返した瞬間、後ろからリーフが抱き付いたことによって、ホリーは腰を強かに打ってしまった。
「痛!リーフ?どうした、お前頭打たなかったか?」
「やだ!どこ行くんだよホリー!」
「どこって……朝食」
「俺も行く!」
「は?海組はもう食べたんだろ?そろそろそっちの練習が……」
「嫌だ!俺も行くからあと十分で食べ終わって見送りに来て!」
「リーフ………」
「ホリーってば!俺はホリーと一緒にいたいの!あのクソ監督が離ればなれにしちゃったけど、それに負けないってベッドの上で誓ったじゃないか!」
「誓ってない!」
「ホリー……」
 途端熱くなる吐息がうなじにかかる。左右に髪を分けていることによって現れているホリーのうなじに、舌を沿わせたリーフは愛おしそうにそこを舐め始めた。背中を昇る、ゾクゾクとした感覚に息を熱くしたホリーは、これだけのことで反応してしまう自分を恨んだ。しかしそれは仕方のないことで、既に、この女王様に調教されてしまったという紛れもない事実であった。練習に向かった者達と朝食を摂った者たち、そんな中でBWの宿舎の最奥にあるこの談話室にはもう彼らの他には誰もいなかった。まるでこの広い宿舎の中、二人しかいないような感覚がホリーの中をおかしくする。

「やめ……っ」
「じゃああと十分だけ、」
 ホリーの腰を掴んだリーフは、自分の方に相手を引く。二人同時にソファーに座したことにより、ホリーの体重はほとんどリーフへ課せられていた。髪が絡み付くのも構わず、後ろから耳に舌を沿わせて甘噛みする。相手の手を解こうとするが逆に、下腹部への侵入を許してしまう。下着の上から強く擦られ、ビクンと反応してしまうホリーが、後ろから見ても真っ赤になっていることが分かったリーフは気をよくして、手の力を一層込める。
「アっ……や、」
「分かってる、気持ちよくしてあげるだけ」
 こんな時だけ男を見せるのを止めて欲しいと霞む景色の中ホリーは思考した。前を閉めていなかったジャージは肩から落ちて半脱ぎの状態になっている。いつもきちんとしているホリーが、そんな少しの乱れを見せることにも興奮するリーフは漂う香りを胸一杯に吸い込んだ。
「んっン……ひぁっ」
 下着の上から引っ掻くように、また強く擦るように触っていたリーフの手が侵入してくる。もう抗うことなどできないホリーは相手に身を任せて両手を口に当てた。その間から熱い呼吸音が漏れ出してくる。

「ふっ、ッ……っ」
 慣れた手つきでホリーの吐き出した熱を指に絡めたリーフは満足そうに笑みを浮かべた。そしてわざとらしく精液が滴る手を相手の目の前に差し出した。
「綺麗にしてね?」
 唇を噛んだホリーは弱々しく立ち上がり、反転するとリーフに向き直って再び跪いた。相変わらずジャージが肩からずり落ちているが気にするでもなく、女のようなリーフの指を丁寧に舐めて、苦い白液を飲み干した。
「いい子」

 そうして眉間に優しくキスしたリーフが立ち上がる。
「もう時間だ。玄関まで見送りに来てね?」
 無邪気な様子に戻ったリーフは、相手の手を引いて歩き出した。身なりを急いで整えながらついていくが、下着が濡れていて先程までの背徳的な行為を主張していた。いつの間にか映っているピーチシトラスの香りはまたしばらく、自分から離れることはないのだろうと思ったホリーは、その瞬間浮かべた感情を速攻で霧散させるのだった。


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