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「見てよヘラ!」
 そう言って駆け込んできた亜風炉の姿に、日本茶を吹き出しそうになって何とか堪える。そのせいで変なところにお茶が入って噎せ返ってしまった。

「何をしている………」
「何だろう……女装……俗に言うコスプレというものなのかもしれないけれども」
 一般に売られている、そのいわゆるコスプレ用の、妙に明るい色彩の服ではなく、本当に女学校などで使われていそうなセーラー服を着込んだ亜風炉は、膝丈のスカートを引っ張っている。今時珍しく清楚な長さだなどと思考しながら、お淑やかさの欠片もないその行動を眺めた平良は、先程の恐怖からお茶の入ったコップを遠くへ追いやった。

「ねえヘラ、三つ編みとポニーテール、どっちの方がそそると思う?」
「……ここは敢えてのツインテールとか」
「はいシュシュ。結ってよ」
「しゅ……?ボンボンじゃないのか?」
「やだなヘラ!君いつの時代の人!?」
「こんな格好している奴に言われたくない」
「いたたた!髪が抜ける!僕の金糸!」
 天然物の美しい金髪に覗く白いうなじは、今日の暑さからか少し赤みを帯びていた。色の白い亜風炉は気候によってその肌の色をよく変えている。

「ほら、できた」
 わざと高い位置に結んだことによって一気にイメクラ感がでる。だがしかし亜風炉の容姿では割と本気で危ないな、と平良は櫛を放った。こんな美少女が外を歩いていたらちょっとした騒ぎになるだろうなどと思考しながら。

「僕のこと可愛いと思っているでしょう?」
「ウザい」
「本心じゃない癖に」
「はいはい。それにしてもこれ、どうしたんだ?」
「欲しかったから」
「………」
「……………」
「それだけか?」
「それだけだよ?」
 亜風炉は欲しいものは何でも手に入れてしまう。入手経路はこれ以上探っても仕様がない。
「じゃあどうして欲しくなったんだ」
「面白いから」
 相変わらずの、我が道を突き進む様子に、肩を竦めた平良が座った椅子に、向かい合わせになるように座した亜風炉は腕を相手の首に回した。膝の上にかかる亜風炉の体重は嘘のように軽い。

「あと、ヘラに僕が女にも劣らないってきちんと見せつけたかったから」

 無邪気に言い放つ亜風炉の、こんな幼い独占欲を含めて可愛くて仕方ない平良に対しては不毛なのにも拘わらず。


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