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「お前、スポーツマンとしての自覚あるのか?」

 行った後に風丸は後悔をした。しかし後の祭りである。食欲が旺盛な佐久間は間食もしすぎてしまう。その分動くので細いままだったが、間食をするならばもっと栄養のある、よいものを食べてもらいたいという、どこか親心に近いものを感じている風丸は、スナック菓子でもチョコレート菓子でも容赦なく食べ続けてしまう佐久間に溜息を漏らした。驚いた様子で目を見開いている佐久間が差し出してくる袋を、片手を突きだして断った風丸は、散らかったゴミなどをひとまとめにし、今佐久間が食べているものを取り上げた。

 こんな体で最強と謳われた帝国学園の正レギュラー様なのだから世の中少し、歯車が狂っている。こうして日本代表の選抜戦の折にチームを組むことになったからこそ知り得た、佐久間の意外な部分に驚かされるばかりである。鬼道と違うチームになったことを悲しみながらも、規則正しい彼がいないことで羽目を外しがちな佐久間の面倒を、いつの間にか風丸は殊勝にみるようになっていた。どうやら佐久間はサッカーをしていない時分には大変小食なようなので、将来的にもしサッカーをしなくなっても、激太りする可能性はないと知って、安心した。彼の将来のことまで気にかけてしまっている己に自己嫌悪するのも、今更であった。

「間食するなら漬け物とか……あと飲むならスポーツドリンクかお茶にしておけよ。お前の血糖値絶対高いって」
「いや、でもオレ、「言い訳はしない!」

 息を詰まらせた佐久間が大人しくシュンと落ち込んだ事に、家にいる弟を思わせて罪悪感が残る。しかし彼を思ってのこと。ここは涙を呑んで厳しくするしかない。

「じゃあせめて、ゼリーとか……」
「あっ……俺丁度青汁ゼリー持ってるから食べろよ!」
「えっ……いつもそんな罰ゲームに備えてるのか」
「慣れたら美味しいから」

 マネージャーに声をかけて冷蔵庫から取り出して貰った青汁ゼリーを手渡すが、佐久間はあからさまに嫌そうな顔をした。それもそのはず、本当に青汁をそのまま固めたような、グロテスクな色をしていたからである。プラスチック製のスプーンを袋から出して、美味しい可能性に賭けた佐久間が少量を口に運ぶ。しかし次の瞬間噎せ返って、側のスポーツドリンクを一気に流し込んだ。

「苦!!」
「甘くなくて、俺は好きだけどな」
「風丸の味覚は絶対おかしい!!!」

 あまりの衝撃か、涙腺が弱い佐久間はボロボロと涙を流していた。驚いた拍子に出てしまっただけらしく、直ぐにおさまりはするだろうが罪悪感は募る。赤くなった目元の涙を舌先で拭った風丸は、体を強張らせる佐久間に、唇を沿わした。目尻や頬、こめかみや顎下、そして首筋を通って鎖骨まで。練習の途中で汗をかき、塩辛いはずの佐久間は、お菓子を食べ続けているからなのだろうか甘い味がした。耐え難い衝動の波に浚われそうになって、長い睫毛を落としている佐久間の恥じらう姿に募る気持ちを抑えながら、時計を取り出し、休憩時間がまだあることを確認すると、風丸はベンチから立ち上がった。

「ほら、佐久間」
「?」
「まだ時間あるから、ゼリーくらいなら、買ってもいいぜ」

 表情を明るくして抱き付いてくる佐久間が、ライバル校として対峙していた頃の面影を残していないことに、懐いて貰えたのかなんて自惚れながら、風丸は完全に絆された自分に溜息をついた。


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