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 また今日も、バーンはライバルたるガゼルやグランの愚痴を言っては荒れていた。幼なじみとして幼少から近くにいたヒートはその余波を誰よりも受け、誰よりもバーンの思考に感化されるはずだった。しかし結局の所、根が穏やかなヒートは、荒れるバーンを頬笑ましく見守るだけで、その要因となっている二人やチームのことには、主だって何も感じることはなかった。あいつらに近付くなよ!などという変な独占欲(これに感じて、ヒートは「バーン様は友達を大切にするから」などと的外れなことを発言している)の元、エイリア学園が機能しているときには、他のチームとはあまり交友がなかった。カオスの結成と共に、プロミネンスとダイヤモンドダストはその距離を近づけたが、うち解けるような所まではいかなかった。
やがて一連の騒ぎが収集し、ひとまず元養護施設で育った子供達を吉良邸に集め、共同生活をするようになった。エイリア学園として所有していた土地は皆、国などへ返還したからである。嘘のように穏やかな日々は、皆の心情をよい方向へと変えていった。チームやランクの垣根も次第に崩れていく中で、ヒート、基、厚石はひとつ、気になり始めたことがあった。

「涼野、またアイスを食べているのか……?」

 涼野の食生活についてである。元々小食な彼はチームメイトに甘やかされて好きなものを食べていた。好きなもの、それ即ち冷たいもの、特にアイスなどである。いらぬことと思いながらも、体調を崩さないかハラハラして仕様がなかった。かつて自らが病弱だったことにより、厚石には健康オタクな気があった。

「今日はまだ三本だ」
 淡々と言い切る涼野に、溜息を漏らした厚石は、縁際から与えられた自室(熱波などと同室である)に戻ると、タンスの奥を探し、見つけたそれを涼野に手渡した。
「何だこれ」
「体温計」
「ふうん」
「測って」
「どうして?」
「涼野の体温を知っておけば、体調管理し易いだろ?」

 不思議そうに眺めていた涼野はやがて、棒状のアイスを口に含んで手を離すと、体温計を脇に挟み測定を開始した。その間隣に座って、「アイスじゃなくて漬け物を食べるといい」などと熱弁をふるう厚石を普段から余り感情の篭もらないその瞳で見つめていた。やがて機械音で測定が終わる頃に、丁度アイスを食べ終えた涼野は、木の棒を咥えながら体温計を相手に渡した。

「アイス食べてたにしても……低いぞ……!涼野、風呂はどれ位入ってる?」
「体が綺麗になったかと感じるまで」
「烏の行水だろ絶対!」
「お前おもしろいな」
 顔色を悪くする厚石の表情を眺め、そんなことを口にした涼野は、会話の中心が自分にあることを感じさせないマイペース振りだった。

「そんなに気になるなら、お前が私の世話を焼け」
 こんな言葉を言い退けた涼野は、用済みになったアイスの棒を厚石に渡すと、そのまま相手の膝を用いて横になってしまった。

「固め……でもまあ、温かい」
 子供っぽい姿を見、厚石はそれ以上、涼野に何も言うことはできなかった。瞳を細めていく涼野の髪を梳くようなことをしながら、よく風邪を引いている彼の体調を改善する方法を、脳内で組み立てるばかりであった。


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