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 フィディオは自分というものに非常に純粋に生きている。手を握るのも愛を囁くのも、自分が思うまま、したいときにする。そういった大胆な態度に少し、戸惑っているマークは彼らしくもなく顔を染めることがあった。
今も町中で何の躊躇もなく手を握ってくるフィディオに、周囲を気にしてしまうマークがいた。マークはどちらかというと大人しく、物事を遠くから冷静に見つめるタイプであったので、最初の内こそフィディオの開けっぴろげな性格を羨んでいた。しかしどちらかが制限しなければこの関係はどんどん加速していってしまうことに気付いた。注目が集まりやすい二人ではあるが、幸か不幸なのか、フィディオの性格は大まかなところ観客にも分かっているようで、手を繋いでいることに対しては特に何かを言われるでもなかった。

「あの店は美味しいんだよ」
 そういって、少し前を歩くフィディオが振り返る。昼食時にさらわれるようにフィディオに手を掴まれたマークは、彼の意志に関係なくイタリア街に連れてこられてしまった。つい先日、イタリア料理でも食べてみたいと言ったことがあるが、それを早速フィディオが実行したというわけである。アメリカの町並みとはやはり大きく違う、このイタリアエリアは、優雅な趣と、本国の、この世の天国とも言わしめる情景に沿ったものであった。流れる川の橋を渡り、フィディオが示した店へ入ると昼時ということもあり多くの人で賑わっていた。コの字型の店の、中庭の部分、その席に座る。その時も自然に椅子を引くフィディオの行動に、女扱いをされているようだとあまりいい顔をしないマークに、「エスコート役だから」とフィディオは答えた。
ボーイを呼んで決めた料理を注文した後、他愛のない会話を続けている間、マークは消えた自分を探しているであろうディランを思い、多少の申し訳なさを感じていた。

「他の奴のこと考えているでしょ」
 メニューを見返していたフィディオがそれを閉じて所定の位置へ戻す。彼の、拗ねてもいない、平坦な声に怯みつつも、マークは目を泳がせた。

「まあしょうがないよね、始終一緒にいられる訳でもないし」
 向き直って口角を上げたフィディオ。少し表情が柔和になったことにより胸を撫で下ろしたマークが言葉を放つ前に、再びフィディオが口を開いた。

「でも妬けるのは、仕方ない。少なくとも二人でいるとき、俺はマークのことしか頭にないから」
 目を細めるフィディオに、またらしくもなく目元を赤くしたマークは、呆然と相手を見遣った。白いマークの肌は赤みが差すとすぐ分かる。いつもは美形で格好いいと称されるだけのマークが見せる、可愛らしい一面に満足したように笑ったフィディオは、この表情を見せるのは自分に対してだけだと思い、優越感に浸るのである。


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