1



 帝国学園高等部を卒業した源田と佐久間は、地方にある付属大学へ入学することになり、近くのマンションで部屋をシェアすることになった。プロへの階段を着実に進む二人は大きなフィールドと、強豪が集うこの大学で切磋琢磨していた。下手なチームに入るよりも、この大学で学んだ方が有意義という位、レベルの高いものであったが、その代わりに練習も厳しい。食事を作り置きやインスタント、外食などで済ませてしまうのは仕様のないことである。地方ということもあり、店の閉まる時間が早く、マンションへの帰り道に食料を調達できる店がないので、練習が休みの日は必然的に買い物が多くなった。移動に便利だからと二人は車の免許を取ったが、源田は怖がって佐久間に運転させようとしない。そのため佐久間は早速ペーパードライバーとなって源田の運転する車の助手席に乗ることになる。免許を取った頃にちょうど、佐久間の家で新車を買い、古いものがいらなくなったので、こちらに持ってきたため、体良く皆の足となっていた。

 珍しく大学も、練習も休みだったその日は近場で一番大きいショッピングセンターへ行くことになっていた。寝起きの悪い佐久間を起こしに源田が部屋に入っていくと、どうやら目は覚めているようで、上半身を起こしている。覚醒が遅い佐久間が、そうしてぼんやり朝を過ごすのを、内心‘可愛い’などと惚気ながらも、淹れたコーヒーが冷めないうちに朝食をとってもらわねばならない。それに早めに行きたいと言ったのは昨晩の佐久間だ。
ぼんやりと壁を見つめている佐久間が、源田に気付いて両手を差し出してくる。慣れっこな源田はそれを掴んでベッドから相手を起こす。もたれかかるようにしていた佐久間がのろのろと洗面所に向かった。相手が準備をしている間に、トーストを焼いた源田はテレビの電源を入れて天気予報を確認する。今日は一日快晴だ。

「おはよう」
「んー……」
 今更ながら挨拶をしてくる源田に曖昧に答えた佐久間は、差し出されたマグカップを受け取ってコーヒーを流し込む。パンを一枚だけ食べ、覚醒しきったらしい佐久間は食休みもそこそこに、もう出掛ける気が満々だった。変な所で行動の早い佐久間が、車のキーを持って玄関に向かったのを追って、戸締まり等を確認した源田が部屋を出る。エレベーターで地下まで降りると、一足先に車に乗り込んだ佐久間が、運転席に鍵を落とす。ドアを開いてそれを拾った源田は、既に楽な体勢になっている佐久間に苦笑して車を出した。
通行量は都心に比べればないも同じようなものだったので、スピードを出して所々荒れた道を走る。少ない会話を交わしつつ、数十分走ると、目的地のショッピングセンターへ着く。佐久間に運転をさせたくない理由の一つである駐車を、源田は難なくこなして店内へと入っていく。まずは上階の雑貨からだ。切れていた電球を買って、興味深い商品を眺めた後は地下に降りて食料品を買い込む。カートの上下にカゴを備えて、一杯になるまで買い込む。決断の早い佐久間はどんどん商品をカートへ入れていくのだ。

「今日の晩ご飯は何にする?」
「カレーとシチューとかの煮込み系以外」
「この間は作り貯めしすぎたな」
「源田、俺刺身とか食いたい。新鮮な魚」
「じゃあ向こうか」
 当然のごとく源田にカートを預ける佐久間が一足先に魚介類コーナーへ向かい、適当に選び出す。源田が着く頃には焼き魚に決めたらしい佐久間が旬のものをカゴに入れる。
「何か切れてたっけ」
「牛乳、あとアイス」
「佐久間は放っておくとアイスばかり食うじゃないか」
「別にいいだろ、お腹壊さないし」
 大体のものをカゴに入れた二人は最終地点である会計の手前、アイスコーナーへ立ち寄る。やはり速急で決めた佐久間が好きなものを入れて、比較的空いている所へ並ぶ。会計を済まし、近くのベンチに座っている佐久間を呼びに行って、真っ直ぐ車へ戻っていく。

「せっかくの休日なのに」
 トランクに大量の食料等を入れた後、エンジンをかけた源田が思い出したように呟いた。
「デートらしいデートもしてないな」
「アイス買ったから真っ直ぐ帰らないと」
 シートベルトを締めながらそんなことを言い放った佐久間は、休日を惜しいとも思っていないらしい。
「でもまあ、帰って冷蔵庫に入れたら、ドライブでも行くか」
「ここら辺、何もないけどな……」
「いいんだよ」
 ハンドルを切る源田を眺めながら、佐久間は座席を倒す。

「俺、源田の運転してるとこ好きだから」
 思わずよそ見をしそうになった源田は佐久間に諫められて前を見直した。こういう所が反則なんだと源田は思った。何年も一緒にいるのに、未だ付き合いたての様な感覚が走ること、佐久間がいつまでも可愛く思えるところ。
「このままアメリカとかに行って結婚したい」
「車で海が越えられるならな」
 くつくつと落とす佐久間の笑い声を聞きながら、源田は、こんな日々の永遠を願った。


戻る
Top
- ナノ -