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「ヘイ!次郎一限目は何の授業だっけ?」
そう言いながら教室に入ってきたディランは左、マークは右からせっかく離した机を勢い良く寄せてくる。並ぶ、三つの机。バランスが悪いったらない。横に一繋ぎの机だろうが、距離をつめて両端から隙間を埋めるのだから、どっちもどっちだが暑苦しいったらない。ディランは早速制服を着崩し、自分なりにコーディネートしていて、マークの方も完全にこの学校の制服を着こなしている。

 交換留学の制度で幾人かの学生がこの学校に通っている。ディランとマークはその一員だ。

 このクラスの委員を担当している佐久間は、ディランとマークの対応を任され、初日から世話をやいたのだが、そもそもそれがこの怒涛の密着攻撃の始まりだった。もともと知人関係にあったらしい他の留学生も、何かと佐久間を頼るようになってしまったので、佐久間自身はクラス委員になった日のことを激しく後悔していた。

 この学校では委員分けが事細かにされているので、このような特別な機会でもない限り、存外クラス委員は仕事がないので、もともと枠も一つしかない。ゆえに今現在佐久間ひとりの肩に、留学生たちが乗ってしまっているのだ。

 月一の定例会で総委員長にあたる鬼道のためになったのもあるが、仕事がないのが何よりもの利点だったのにすっかり台無しである。

 分からない問題は逐一聞いてくるディランの声は大きいし、体育の授業で運動神経のいい二人は活躍をするごとに佐久間に駆け寄る。幼い双子の親にでもなった気分だが、時たま彼らのくせか、頬に形だけでなく本当のキスをしてくるのが一番質が悪い。

「まったく、相変わらず騒がしいですね」などと長い髪を揺らしながら、さも当然といったように昼食を一緒に取りにくるエドガーも、留学生のひとりである。佐久間の手をとり、その甲にくちづけする姿は優雅すぎて、今日も避けることができなかった。

 すでにファンクラブまでできている彼はディランやマーク同様、人付き合いには不自由しなそうである。ファンの女の子に騒がれるのは慣れっこといったていで、クラスの女子の黄色い声に笑顔っ答えたエドガーは、割り込むように佐久間の隣に座る。

「悪いな、授業が長引いた」
 次いで、一足遅れる形で輪に加わったテレスも、密かな人気を博している。ぶっきらぼうで相手を舐めたような態度をとりながらも、困っている相手を見捨てておけない性分らしい。

 佐久間自身は見た目こそ派手で注目されがちではあるが、目立つ行動を控えて影になるように生活してきた。鬼道や円堂などといったド派手な人物たちの三歩後ろは意外と安全で目立たないものである。そうして平穏無事に生きてきた佐久間が、昨今この闖入者たちのおかげで目立って仕方なくなってしまった。

 男女問わず、直接留学生たちにぶつかって来れない人間は、佐久間に様々な質問をぶつける。曖昧に答えながら、面倒な役回りになってしまったものだと嘆息する。

「食べないのかい?次郎」
 矢継ぎ早な会話の合間、声をかけてくるディランや、こちらを眺めてくる面々を見つめ返しながら、それでも、ユニークな彼らを憎めない自分がいることを、佐久間は自覚せざるをえなかった。


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