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 佐久間さんはどうして、源田さんのものなんですか、という問いを受け、源田はゴールポストから真っ直ぐ最前線を見つめた。こちらに気付いた佐久間が「成神!ポジションに戻れ!」と声を上げた。頭の後ろで手を組んだ成神が「はぁい」と答えながら定位置へ戻り、佐久間が再び背中を向けても、源田は相変わらず答えを見失っていた。佐久間はどうして、自分のものなのだろう。

 帝国学園の練習は長く色濃い。ヘトヘトに疲れ果てながら、最後に残ったスポーツボトルのドリンクを飲み干しながら更衣室へと戻っていく。よほど急いでいるメンバーでなければ、シャワーを浴びてから帰宅する。あのお堅い制服に汗のにおいが染み込むのは、なるべくなら避けたい。常時着用することを義務付けられている、帝国学園のブランドは、最近少しだけキツくなってきた。

「一緒に入りましょうよ!」
「シャワーに一緒も何もないだろ」
「そんなことないですよ」
 佐久間のあとをぴったりとついてまわる成神は、シャワールームへと消えていく。当初、成神は佐久間を毛嫌いしていた。佐久間は見た目の鋭さで、性格まで激しいと構えられがちだが、仲間意識は強く、とても優しい部分が多い。大概のことを許すその姿勢や甘さに、すっかりほだされた成神は現状のように佐久間に懐きはじめた。

 佐久間にとっては一年ぶりの後輩だった。成神たちが入学する前までは上級生に囲まれていたのだ。後輩というものが可愛くないわけがない。わけても、自分に好意を寄せている相手ならば。

 次いでシャワールームに入りながら、佐久間と成神の会話を聞く。佐久間さんはどうして。その言葉を反芻しながらシャワーの栓を捻る。排水溝に吸い込まれていく水が渦を巻いて思考を流し込んでいった。

 そもそも、佐久間は自分のものなのか、それ以前に、自分は佐久間のものなのではないか。どうして、自分は佐久間のものなのか。そんなことは至極、明確だ。けれど、そういえば、佐久間から答えを宣言されたことがない。このぐちゃぐちゃしたわだかまりは結局、それに由来するのだ。源田は佐久間に甘い。輪をかけて佐久間に甘い。ゆえに佐久間の心を揺らす事は、喜び以外強要しない。

 高い音と共に栓を閉めた源田は、濡れそぼる体を拭くことも忘れ、佐久間の手を取る。呆気にとられている成神を置き去りに、湯気の立ち上るシャワー室の扉へ。少しだけ振り返った成神に笑みを浮かべながら一言。

「佐久間が俺の世界だからだ」
立ち入らせようと、奪いはさせない、そういった微笑みには、王の風格が滲み出ている。


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