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 すこしは帝国学園生としての誇りをと云々かんぬんと言ってはみても、彼ら自身に自覚がなく、加えて概念がまるで違うのだから決まりが悪い。元々その関係性を隠す気があったのか否か、ともあれ現在では周囲が目のやり場に困るほど、彼らは寄り添い合っている。

 その光景に完全に慣れてしまうこともできず、尻目で見つめる彼らは相変わらずそばにいた。彼らが共にあることは、呼吸をするかのごとく、元来そう珍しくはなかった。けれど、最近では輪をかけてその距離が縮まっている。

 いつでもそばにいた二人が、決定的な距離をとった世界大会以降、まるでその時を取り戻すかのような交わりである。それは報告されるまでもなく、なにか重大な変化があったのだと、周囲にははっきりとわかるほどだった。

 ただ、佐久間の、靄の中に綻ぶ花のようなはにかみや、源田の愛おしげな表情を見ていれば、強く二人の態度を指摘することなどできなくなってしまう。周囲の者たちには、彼らの味わってきた特別重たい罪悪感やら、苦しみが痛いほど分かっている。あの、心をねじ曲げ騙すような、偽りの笑みとは比べものにならないほどよかった。

 目で会話する、を体現しているかのように見つめ合って数秒、ようやく何事かを口にした佐久間に、すこしだけ思考した源田が言葉を返す。その手が佐久間の額に伸び、触れてから数秒、今度は佐久間が源田の腕をとって、彼のポケットから出ているグローブを相手の手におさめる。

 ふざけあうように笑うが、それはとても静かな微笑みだった。彼らが何をはなしているのかは分からない。けれどみなの視線は、吸い寄せられるようにそちらへと向かう。まるで違う空間に、目が釘付けになりながら、止まっていたそれぞれの着替えを再開し始める。ハンガーにかけたジャケットを、ロッカーへしまい、自分のユニフォームへ。すっかり着替えが終わっている源田と佐久間はすでに練習場へと向かっていった。

 彼らはすでに、切り離された世界に生きている。おおよそ感じることのできないほどのなにか、悟りをひらいているからこそ、幼稚で、艶めかしく、閉鎖的だ。

「源田!」
 スタジアムに、佐久間の声が響く。「みてろよ!」意気を示すような口ぶりと共に放ったシュートは、源田の守るゴールに向かっていく。惜しくも寸分の差で弾いたボールは弧を描いて飛んでいく。悔しがりながらも、ボールを拾いに向かった源田のもとへ走り寄った佐久間が、再び源田と会話を始める。彼らのことだ、フィールドにあってはサッカーのことしか語らないだろう。源田のアドバイスで佐久間のプレーが変わる。佐久間の一言で源田の守りが際立つ。ふたりは幸せそうに笑う。それが全てで限りない十全だ。ふたりの馴れ合いを許してしまうほどには、帝国イレブンも彼らに寛容だった。


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