23



 待ちに待った夏休みである。そんな中でも部活はほぼフルで入っていて、加えて宿題もたんまり出ていたのでほとんど出突っ張りになっていた。その日も早朝から行った、午前中だけの練習を完了し、汗を流したメンバーは怠そうに着替えをしていた。更衣室はいくつかあり、レギュラー陣はまとめて、比較的いい設備の所を使用していた。とはいえそこまでの大差はない。どこも徹底的に綺麗で最新鋭なのが帝国である。佐久間はじゃんけんで負けた者たちが購買で買ってきたアイスを口にしながら、器用に半袖に手を通し、ボタンをしめていた。練習後落ち着き、そろそろ腹の虫が鳴き出しそうな、そんな時分である。

「ジロウー!」
どこかの次郎が呼ばれていると、普段下の名前で呼ばれない佐久間は他人事の顔をしていたが、その声は段々近付いてくる。やがて更衣室の扉は自動なはずなのに勢いよく開かれる。飛び込んできた相手の姿に佐久間は残り少ないアイスを落としてしまった。

「でぃ、ディラン・キース…なんでここに」
同じくイナズマジャパンで顔を合わせていた不動に続き、佐久間に抱きつき、欧米式の挨拶をする相手に気付いた面々が驚きに口をあんぐりと開けていく。

「ジャパンの観光さ!カズヤから色々聞いていたから、ぜひ来てみたかったんだ。マークはサマースクールで明日来ることになってるんだけど、ミーは一足先にジロウに会いに来たって訳さ!」
 一気にまくしたてたあと、マウストゥマウスでキスをやらかしたディランに周囲が固まる。佐久間も例外ではなかった。行動力の塊であるディランは佐久間を促し、帝国の敷地を出て行く。聞けば、ジャパニーズフードを食わせろということらしい。えいままよ、とやけになって楽しむよう心がけるも、一件目にディランが指定したのがメイド喫茶であり、佐久間の決心は脆くも崩れ去った。

 また面白がって間違った知識を与えたのだろう。メイド、メイド!と騒ぐディランを電車に乗せ、商店街のメイド喫茶へ連れて行く。秋葉のデータをざら見したのが役にたった。迷うかと思い携帯で調べたらあっさり着いてしまった。できるなら着かなくてもよかったのに。

 ディランはというと、メイドの一挙一動に大騒ぎで感動しては佐久間にそれを伝えようと躍起になる。次第にその純心さに絆され、ディランを見ているのが楽しくなってきた。よく分からない名前のケーキを頬張るディランの口周りを拭いてやっていると、店の店長にメイドとして働かないかなどとスカウトされて一気に機嫌が急降下した。

 メイドに見送られながら外に出るとディランが、「こんどはクイダオレだね!食べ歩き!」と意気揚々と言い放った。大きめのケーキを一つ完食したのに凄まじい食欲である。残念ながら食い倒れの町ではなかったのだが、適当に出ている店で買い食いを始める。佐久間自身は見ているだけで腹がいっぱいになってきた。ディランは佐久間の手を握り、楽しそうに笑んでいる。つられて佐久間も笑っていた。

「日本は楽しいか?」
公園のベンチに座り、全国チェーンのたこ焼きを食べながら満面の笑みを浮かべているディランを見つめ、佐久間は聞いていた。ディランは嬉々として答える。

「ファンタスティック!!とても楽しいよ!何より、ジロウとのデートが楽しい」
 最後の音をこもらせるように、再び口付けをされた佐久間はさすがに頬を赤らめ、まじまじとディランを見つめた。

「やっぱりジロウのことが大好きだよ」
 平然と言ってのけるディランが、そばのゴミ箱へパックやビニール袋を捨てる。再び佐久間の手をとり、楽しそうに口を開く。

「さあ、次はどこに連れて行ってくれる?」


戻る
Top
- ナノ -