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※性的表現を含むので18歳以下の観覧はご遠慮ください



 きっとこれは俺の過ちなのだろう。鬼道さんへの想いをきちんと伝え切れていなかった俺の落ち度こそが最大の罪なのだ。こんな俺を鬼道さんは愛してくれる。それも、全身全霊で。だからこそ俺は甘んじて受け入れなくてはならない。須く、鬼道さんの全てを受け止めなくてはならない。

 さんざめく外界から隔離されたこの空間はひたすら静かだ。太陽の光を長らく浴びないと精神に異常を来してくると耳にしたことがあるがそれは本当なのだろうか。佐久間がここに閉じこめられてからどれ位経ったのか定かではないが、その説が本当なのだとしたら自分はとっくに狂っているのだろう。ただ、この空間の支配者が誰であるかを知る佐久間の中には、抵抗などという文字は浮かばなかった。地下牢のようなこの部屋は簡易ベッドとユニットバスがついている。ゆえに本物の地下牢よりは何十倍も良い環境なのだろう。とはいえ、佐久間は牢というものに繋がれたことがないので実体は分かりかねた。ただ、首に付けられた革製の拘束具だけが妙に息苦しく感じさせる。鉄の重い扉は自分の力では開くことは適わなそうだ。鍵の他に最新鋭の認証システムも用いられているらしい。そもそも佐久間はここから抜け出そうというような考えは浮かばないので、関係のないことではあったが。
 いただけないのはこの退屈である。一日中己の支配者のことを考えながら、このような窮地へ追いやってしまった自分を責めたてる。このまま見限られでもしたらと、怖ろしさが募っていく中、ようやく鉄の扉が開いた。時間の感覚を失っていた佐久間にはいつぶりか分からぬその人が、いつものような余裕の笑みでこちらを見下ろしている。

「良い子にしていたか?」
 そんな言葉を吐きながらコツコツと跫音を慣らしつつ、ベッドに寝転がっている佐久間へと歩みを進める。猫のように体を丸めていた佐久間は上半身を起こし、ゴーグルを外すその仕草の先、鋭い眼光を見つめた。


 この部屋に連れてこられた時、見慣れない鬼道の表情と部屋の雰囲気に、佐久間は背筋を凍らせ、言葉を失ってしまっていた。いつもと様子の違う鬼道に招かれるまま、彼の自室の地下へ通された。その声の平坦さに多少なり共の警戒をすべきであったのかも知れない。
 鬼道はそこで佐久間を犯した。

 真新しいベッドに散らばる、花弁のような血のあとが生々しかった。痛みで脳が焼き切れるかと思った程、衝撃的な体験は佐久間の中に深く刻まれている。嗄れて痛む喉から出る、呻き声と淫声が混じり合い、生臭さに溶けていく。泣き叫ぶように「いやです」「鬼道さん」「何でですか」「ごめんなさい」「ごめんなさい」と繰り返した佐久間は今や、男を知ってそれを受け入れる術を身につけている。ゆえに彼の中に入り込むのはもう、己を溶かすような快楽ばかりなのである。涙も痛みも羞恥心も不信感も外界への思いも全てあの日に置いてきた。ただ今は、鬼道有人という存在と、彼が与えるもの全てを受け止めることだけに従事していればいいのである。

 優しい指先が髪を梳いていく。喉が鳴りそうになりながら、益々自分が動物じみてきたことを感じる。与えられる口付けに、貪欲に応えながら、下半身に集まる熱を抑えることが出来なかった。お見通しの鬼道はくつくつと蔑むような、そして愛おしくて仕方がない、といったような嗤いを浮かべると、佐久間の下腹部へと手を伸ばす。鬼道の指が自分の弱い部分に触れている、その事実に喘ぎながら、甘い声で口許を彩る。

「鬼道さん……」
 ぐちゅぐちゅと、卑猥な音が神経に直接作用する。何よりも大事で尊崇している鬼道に、自分の不埒な面をさらけ出し、その事実に悦びが溢れてくる。愛液に濡れた指を容赦なく奥へ奥へと侵入させながら、鬼道の片手が体の隅々までを愛撫していく。必死に縋り付きながら、鼻に掛かった声を上げ、「足りません……」と訴える。今は痛みなど感じない。前戯など、ただのお預けにしかならないのである。

「鬼道さんで満たしてください……」
 鬼道の掌が太股へと伸びる。体の柔らかさを大いに利用し、深く入り込む鬼道が漏らす、仄かな快楽の声が、佐久間の何よりもの慰みである。

「動くぞ?」
「ぅ、はぃ……っ」
 ズブズブ、ぐちゅぐちゅ、何度聞いて、何度同じ事を繰り返しても満たされることなく、そして飽くこともない。ただただ貪欲に相手を求めるばかりである。鬼道の熱が直接自分の中に入り込んでいる。それは昇天しそうなほどの悦びなのである。

「きどぉ、さぁ、ん……」
 途切れ途切れの声、濡れた隻眼、快楽に従順な傀儡、自分を何よりも至上に考えるこの存在。より完成に近付いていくこの恋人は、日に日に艶めかしく、美しく、そして淫らになっていく。鬼道の内の、満たされることのない支配欲と独占欲が、佐久間の中で爆ぜては交わるのである。


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