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 イレギュラーである。帝国学園生にありがちな、堅さがあるかと思いきや、存外親しみやすい一面があるにもかかわらず、その先にはなかなか踏み込めない。漠然とした距離感に何とも落ち着かない思いで、円堂はいつの間にか佐久間に声をかけていた。

 驚いたのは佐久間である。仰天と言ってもいい。ただ、次の瞬間には平静を取り戻し、鬼道に断って跡に付いてくる。こんな時にも、いやこんな時だからこそ、円堂はサッカーボールを手にしていた。

「どうしたんだ?」
「サッカー、やろうぜ」
「昼間あんなにやったのにか?」
 柔らかく、優しげに言い放つ佐久間に、円堂は自分の中で疼く違和感に気付いた。結局乗り気になった佐久間にシュートを撃ってもらう。それを受け止め、何度もPK戦を繰り返した。相手のシュートから、相手の気持ちがわかる。それが信条であった。

 確かに、佐久間のサッカーに対する思いは伝わる。だが惜しいことに、それまでである。互いに心地よい疲労が重なってきた頃、シュートを受け止めた円堂が、ボールを抱えたまま考え込んだ。時間の経過の中で、次第に疑問を感じた佐久間が、「どうした?」と口にする。円堂は顔を上げる。ライトの光に照らされて、佐久間の髪や、汗がきらきらと輝いている。

 自分の気持ちの根幹が分からず終いである。初めて体験するものばかりで判別がつかない。生まれたての幼児のように、分からないことだらけが、佐久間の周りを煙のように取り巻いている。
純粋に、綺麗だと感じていた。ただそれだけだった。

「佐久間」
 ボールを片手で投げ返す。

「もう一本!」
 快活な円堂に対し、わずか寂しそうで、それでも嬉しさが滲んだような笑みを、佐久間は浮かべた。

 円堂はまだ知らない。それでも確かに、一歩ずつ歩みを進めていく。未知から既知へと、無知から愛へと、少しずつ、進んでいく。


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