近道のような遠回り



 19:13、日が落ちきった空は抜けるようなスカイブルーとチラホラかかる群青色の雲。南西の空は黒の分量が増した暗闇で、北東の空は彩度の高い蒼がのこっている。家路につく体の通行人はまばらで、時折徘徊するタクシーが車道を過ぎていく。昼間強かった風も今は勢いを緩め、時折道の脇に植えられた木の葉を揺らすばかりであった。過ぎる家々から時折香る、夕食の匂いに空腹を訴える腹が鳴りそうになる。

「今日の夕飯は何だろうな」
「また肉か魚の二択だろう?あとは旬のものか」
「旬のものってなんだ?」
「それこそ佐久間が詳しそうじゃないか」
「俺が興味あるのは食べることであって食材じゃない」
「線が細いのによく食う」
「これからが成長期だからな」
 差し掛かった急な坂を一気に上り、源田よりも高い位置に立った佐久間が快活に笑った。

「俺を抜くにはまだまだかかりそうだがな」
 速度を上げた源田が歩みを合わせると、いつもの身長差に佐久間は少しおもしろくなさそうな顔をした。むくれた佐久間を追い越して振り向いた源田が、屈んで相手の唇を塞ぐ。佐久間が驚いて押し返す前に、源田の唇は離れていった。

「バカ!」
「誰もいない」
「そういう問題じゃない!」
 激昂しても変わらず笑みを浮かべている源田が、あやすように相手の手を取って歩き出す。三つ目の角を逆に曲がるまでにはご機嫌を直してほしいと願いながら。


2010/5/27 Thu 19:50