愛と性欲(R15)/ミストレ×バダップ


 何の容赦もなくオレの顔に傷を付けたところだとか、オレに迫られても眉一つ動かさないところだとか、オレに絶対一位を譲らないところだとか、それなのに生活能力が決定的に欠如してたりだとか、いつ寝てるんだかさっぱりわからないところ、エスカバと戦略の論議中タッチペンを握り直す仕草だとか、食べるとき食物を小さく切って最低限の大きさしか口を開けないところ、だから唇にソースがついて舌で舐めとる仕草に、ペンで二回ほど机を叩いてから反論を始めたり、一皮剥くと誰よりも熱いところだとか、自分の信念を貫くところ、そういう全て全て、大好きでたまらない。君から愛を貰えるなんてそんなことは想像もできないけれど、見返りなくただ愛していてもいいと、許して欲しいんだ。だって君は愛という概念を持っていない。だから誰も愛そうとしない。その中でなら、絶望的な片思いでも構わない。オレ以上がいないなら、それでいい。オレは愛することで、暫定的に、君の一番を勝ち取る。愚にも付かぬといった表情をするけれど、ねぇバダップ、愛って、そういうものなのかもしれないよ。


 こういう行為にも、反応はないものだと心のどこかで思っていたから、太ももを震わせ声を噛み殺す淫獣のような様子に些か驚いたりもした。けれど、それが薄まれば途端に劣情となってオレを支配する。美しさで言うなれば、オレの方が勝ってはいる。けれど、ある種の色気は彼の方が強いのかもしれない。男らしい肢体には、普段どんなに激しい訓練でも見せない戸惑いが浮かび、浅黒い肌を艶めかしく照らす。その頑なさ、下手な乙女よりも固い情の扉をこじ開けて、最も弱い部分をさらけ出すことに言い難い快感がある。少しうつむき加減な彼の瞳だけはいつも冷え切っている。オレの性器と、彼のものを合わせれば、様々なものが行き交う。我慢せずに彼の耳元へ嬌声を上げて誘う。
 ねぇ、君も、弱い部分に耐えかねた情欲の呻き声を落とせばいい。
 女のものとはまるで違う、オレが君をこの一瞬でも欲の名の下に支配している事実。性欲処理なんて都合のいい言葉を充てて、逃げまどっている哀れな君。その姿に欲情してたまらないオレは更に情けない。それでも構わない。堕ちるのなら、君とがいい。
 彼がオレの名を呼ぶ。制止のような、促進である。強く擦りながら唇を奪う。主導権をとられるのを嫌う彼は疲弊しながらも受け応える。オレが彼に勝っていること、快楽という罪悪。

 バダップは性欲処理を行う。自分が女役になど、考えたこともないのだろう。だがオレは、毎夜彼の頭をベッドに押し付け、馬のように這っている相手の尻を掴み、あらぬ場所に自身をねじ込み、完全に汚しつくす幻想を夢見ている。女を抱く以上に、背徳感が興奮材料となって快感を生むだろう。

 バダップの掠れた息を感じる。ドロリと流れる白液が俺の手にかかった。二つのそれを混ぜ合わせて口に含めばいつもと同じ、涙の腐った味がした。

2011/1/12 Wed 18:46

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