知ってる君と知らない僕と/マーク×ディラン


 秋空が殊更眩しく見える朝だった。朝方までかったレポートがきちんと仕舞われているかを確認して歩みを早めた。バス停までの道のり、目配せをして相手を捜す。待ち合わせをしているにもかかわらず、一刻も早く会いたい気持ちが先行していた。そんな先、派手なブロンドのロングヘアーを認めた彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。そして次の瞬間、自分が浮かべた感情にあ然としたのである。



 マークは淡々としていた。そして興味もなさげに頷くと「それで?」と言い放った。肩をすくめて彼の机に身を乗り出し、肘を突いたディランが興味津々なのにはさらにつまらなそうに口をすぼめる。

「どうしてだい?」
 噂を追及してくるディランの好奇心は抑えられない。行きに買ったサンドイッチを袋から出したマークはオレンジジュースのペットボトルを指で押し退けた。自分の昼食に手をつけない相手に視線を戻すと、アイガードの奥の瞳が細められた。

「今度は何が気に入らなかったんだい?また彼女たちの喧嘩を見たとか」
「違う」
「ミーは見たかったな、マークを巡って女の子たちが髪の毛引っ張り合ったりするところ」
「トラウマになるからおすすめしない」
「だから、今回のガールフレンドとは何で別れちゃったの?」
 二つ入りのサンドイッチ、その片方を差し出せば、ディランは受け取りそれを咀嚼し始めた。彼は明確な答えを聞くまで、マークがうんざりしているこの話題を切り替えないだろう。何のことはない。正直に言ってしまえばいい。

「あの子よりディランといる方が比べ物にならないほど好きだと分かったから」
「マーク!!」
 机越しに抱きついてきた相手にサンドイッチの具がつかないように手を上げる。即座に離れていった彼は笑顔だったが「困ったね」と似付かわしくない言葉を放った。

「マークはミー放れができない!」
「じゃあディランは、俺より一緒にいたい相手がいるのか?」
「そんなもの、いるわけないじゃないか」
 余りにも平然と言い切るディランに呆気にとられたマークは口をつぐんだ。

「ミーはもう諦めたよ、マーク以上も以外もいないって知ってるからね」
 サンドイッチを食べ終わってしまったディランは、口元に笑みを浮かべていた。

「でも、俺がディランより一緒にいたいと思う相手に出会ったらどうするんだ?」
「悲しいけど、マークが幸せならそれでもいいよ」
 机についた腕に頬を当てたディランは、なおも微笑んでいた。マークは感じた。この相手には一生適わないだろうと。
ディランへの依存を断ち切ろうと躍起にっていた自分の阿呆らしさに溜め息を落とすと、相手の髪に手を伸ばした。指通りのよい髪の一房を引き、自然口角を上げる。


「俺も、無駄な努力はやめるとしよう」


 その一瞬だけディランが見せた、泣き出しそうな表情を、マークは忘れることができない。
2010/9/29 Wed 10:03


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