トップノート・ラブアフェア/マルコ×ジャンルカ
芳醇な香りが漂う。脚があるダイヤ型のガラス容器はスカーレット。透かして電灯を見上げれば、変形した容器と中の透明な液体で光が屈折して輝く。親指の爪でカチン、とキャップを外せば床にそれが落ちる音。天井に向かって一吹きすれば、燃えるような香りが強くなる。フレアのミストを浴びながら、それでも不足しているものを補うように、ソファーで寝息をたてている相手に視線を移す。床に座り込んでいることで相手との距離は近かった。長い睫毛が彩りを明るくしている。あの、得意気で、一歩先行く表情をしないからか、その穏やかな顔立ちには愛おしささえ感じてしまう。彼に降りかかったトップノートは、その体臭とマッチして腹立たしいほどに存在を引き立てていた。これで十全だ。規則的に繰り返される息遣いの合間、薄く開いた蕾のような口元から思わず目を離し、膝に乗せたままだった雑誌へ視線を戻した。
「、……‥ジャン、」
微睡みのなかにある彼の声は猫を呼ぶかのようで、そのくすぐったさに無視を決め込んだ。しかしなにが面白かったのか、くすくすと破顔一笑しながら「ジャァン」強請るような、そんな声。
「こっち向いて」
時折、本当にごく偶に、ご機嫌斜めになっている彼の質の悪さは天下一品だが、陽気になっているときも面倒なことこの上ない。特に彼はジャンルカを手玉に取るのに長けている。白皙の指が、髪を梳いてくるのを退けながら、相手の要望に沿ってやる。ただし、視線は厳しいままだった。
「おはよう」
目を細めた彼はまだ寝ぼけているようで、周りが微かゆったりとしていた。そしてソファーに横臥したままジャンルカの手を引く。
「いい匂いがするね」
「お前の香水だろう」
「そうだよ」
幼少のように言い放った彼に油断をしていたのだろう。窺うために体を少し斜めにしたとき、ジャンルカはのし掛かられるように相手の口付けを受けた。体勢は崩れ、床に押し倒されたはまだいい。ただ彼の体重が腹といわず腕や足へかかり、その密着は非常に高くなった。
「いい香り」
うっとりと言い放ったマルコは、何かを言おうと開いたジャンルカの唇を再度塞いだ。
2010/9/30 Thu 19:06
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