極彩色は定めの下に朽ちていく/円ヒロ


 どんなに鮮やかな色にも、朽ちるという経過ないし結果は訪れるものである。絵の具をそのまま溶かしたような、艶やかな橙色のフォックスフェイスだって、実 一つずつに確実に焦げ茶や黒が侵蝕してきて、結果焼け跡から掘り出したような、見るも無惨な姿になってしまう。この鬱血はとぐろを巻いて食い込むけれど、変色しきった身にはその執念が酷く滑稽に見えたがら、俺は飴玉を透かして見たような彼方の世界にくつくつと笑い声を落としては渇いた瞳を恨みったらしく思うのだった。



 向こう側が透けてしまう紙があって、、ビニール製のそれとは違うんだ、あんなに綺麗に透けやしない、そう、世界が白濁してぼんやりと写るのだけれど、確かトレーシング、ペーパーとか言ったかな?まあ名称なんて二の次として、兎も角その紙を手に取ったとき、まるで俺みたいだな、なんて思ったんだ。俺は薄っぺらい紙一枚でしかなくて、それ以上になってはいけない存在なんだと、そう思っていたから。自虐的だとキミはわらうかな、でも俺はそれが真理だと飲み干してしまっているんだ。そんなボクとは大きく隔てた先に、そうだね、まるで対岸、に位置するキミに執着心が湧いてしまったのは仕方ないのかも知れない。
最初は、興味だった、のだと思う。ボクは君と違って何かと周りを窺っていないと落ち着かない性分みたいで、盗人のように周囲を分析してしまうから、直ぐに気付いた。ボクは、キミに惹かれざるを得ない、というその事実を。目をどす黒く光らせながら、キミの朽ちる前提での眩い姿を不可思議に見つめていた。物心ついた時にはもう枯れ朽ちていた俺は青青として濁りのないものを初めて目の当たりにして呼吸を忘れた。こんなに強い自我、を、揺るぎない根幹を、中心に据えている人間なんて、未だかつて見たことが、なかったんだ。
キミのことが知りたくて仕方なくなった。キミのように満面の笑みで、サッカーをすれば、近付けるのか、なんて考えた。サッカーはボクにとっては手段でしかなく、俺にとっては束縛でしかなかった。それを楽しむだなんて、考えてもみなかったのに。ねえ、どうしてそんなに自分自身を生きられるのかな、想像もつかないその領域で、踏まれても千切れても、根強く何度も吹き返すその強さは、何なんだろう。それが少しでも解ったら、なんてボクには決して許されないのだろうけれど、どうしても、俺はキミに執着してしまう。
キミと出会って疑問が生まれた。思考が始まった。願望が浮かんだ。想像が膨らんだ。杞憂が口をあけた。毎日が辛くなった。毎日が、楽しくなった。
押し込めていた俺自身が覚醒するのを止められない。これがボクの生の、最大の罪悪だとしても、もう引き返すこと何てできないんだ。締め付けられる胸から溢れるのは、苦汁が如き溢血だった。



(守、どうしたら俺を必要としてくれるかな)



 生い茂る深緑のように色鮮やかなキミが、地面に植え付けられてしまったかのような枯れ葉のボクを必要するなんて、幸福の大きさに伴って現実味は薄っぺらかった。まるで俺自身のようだ、なんて思考したら自嘲がひらりと重なった。

2010/4/1 Thu 02:53


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