君は魔法使い/円ヒロ


 俺にとって円堂くんは遠い存在だった。それこそ何億光年も先で輝く星のように感じていた。彼を理解したくて無理矢理近づいてみるけれど、空気なんてないようなそこでは押しつぶされてしまうから、手を伸ばしても届かない、そんなラインで足掻いている。結局俺はここまで近付けたことに半ば満足してしまったのかもしれない。




 連休の直中、その日は午前中だけの練習だったのたが、部室に置き忘れがあることに気がついて、俺はメンバー帰宅後であろうそこへとって返してきていた。教員室にその旨を伝えて鍵を借りようとしたのだが、生憎それは戻されていないようだった。誰かが残っているのか、なんて考えながら辿り着いた先、部室にいたのは鉛筆を指に挟んだ手で頭を抱え、長椅子に座る絵に描いたような悩んでいます像を作りだしている円堂くんだった。よく見ればその膝にはノートが開いた状態で置かれている。新しい必殺技でも考えているのだろうか、邪魔するのを憚ったが、向こうがこちらに気づいてしまった。

「ヒロト、どうしたんだ?」
「忘れ物だよ。円堂くんこそどうしたんだい?」
「それがさ、宿題が終わらなくて」
「宿題?」
「今日先生に言われて思い出したんだけど、宿題沢山出てるんだよな…!ちょっと問題を見てみたんだけど、全然解けなくて」

 さては部室に宿題やノートを全て置きっぱなしにしていたな、そんなことを思いながら近付くと成る程、死角だった位置に教科書と問題集が置かれている。

「数学?」
「さっぱりなんだよなあ」

頭を掻く円堂くんは変わらず問題集とのにらめっこを続けている。

「俺で、良ければ、手伝おうか?」

恐る恐るの、そんな提案に表情を明るくした円堂君が目を瞬かせた。

「いいのか?!」
「俺、もう終わらせたし、少しは役に立つと思うけど」
「すっげー助かる!ありがとな!ヒロト!」

 くすぐったさを感じながら教科書類を手にとってその場に座る。エイリア学園にいた時にもデータ収集やら知能強化やらの名目の下、学科が課せられていたことに感謝した。
人に解り易いように説明するのには苦労したが、何とか円堂くんの理解は得られたようだった。

「!解った!ヒロト、お前スゴいな!魔法みたいだ!」
「魔法?」
「あんなに解らなかったのに一瞬で解けるようにするなんて!」
「俺は、円堂くんの方が魔法使いに見えるよ」
「?なんでだ?」
「円堂くんは沢山魔法を持ってる。数式が解ける位じゃ足元にも及ばない魔法」
「でも俺からしたら、数式を解けるのだって凄い魔法だ」

 僕の自嘲を軽く飲み干して、それでもまた眩い笑顔で返してくれる。このことさえ、僕には及びがつかない魔法だよ。そんな思いを潜ませながら、自然と零れていた笑みを自覚した。

2010/3/4 Thu 02:54


Top

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -