目隠し鬼/ヒバン




 満足しきれなかった箱庭から飛び出してみても、俺のことが理解できるのは結局、コイツしか居ないと言うことを思い知らされることとなった。幼い頃から一緒だった、それは理由の一端でしかなく、恐らく同じ境遇、同じ経験、同じ間柄があったとしても、コイツのように完璧に俺を理解できる人間など存在しないのだ。人は誰しも理解というものを渇望するのだという。コイツと出会った瞬間にその渇望が満たされてしまった俺はより傲慢になってしまったのかも知れない。故に時折深く感じる、コイツの存在。付いてきて欲しいなんて口にしなかった。付いてきて欲しいなどとは思ったことがなかった。それでもコイツは何も言わずに俺に従った。その事に今更救われている自分に嘲笑しか浮かばない。ああ、コイツは、俺よりも俺を理解しているのだと。時間の波を泳いでいく毎に、さながら見果てぬ地平線の虜となって帰る岸を忘れてしまうかのように、俺は深くて大きいコイツへの依存が高まっていく。俺にとっての平穏そのもの。拠り所。帰るべき場所。コイツだけだ。俺がもっと権力を振りかざすことの出来る立場なら、命令をしてでもコイツを繋ぎ止めるのに。俺の傍を離れるなんて想像も付かないことなのに、どういう訳かまだ不満だ。俺にはお前しか居ないのだから、痛いほどの束縛の一つでもして欲しい。









 アイツはとても不安定だ。そう言葉にしたとて周りの者には到底解せない事実であろうが。99パーセント、355度、己を演出出来てしまう(それも無意識のうちに)のだから仕方がないとは思うが。普段自信と熱情に満ちあふれ、闘志の炎を纏いながら不敵に笑みを浮かべる、そんな姿しか現れない。俺の前を除いては。どういう訳だか、要因たり得そうなものは多くあって例に出し尽くせないが、唯一俺には 着火すれば一瞬で燃え散りそうな際どい面を垣間見せることがある。俺の元から離れるな、というアイツにとっては無意識であろう甘えという名の牽制は、どんどんこの視界を狭めていく。いずれ俺はアイツの姿しか目に映らなくなるのだろう。次第にゆっくり、じっくりと作り変わる自身に、(変化を恐れる人間という物にしては珍しく)恍惚とも呼べる喜びが沸き上がるのを感じていた。相当末期なのだろう。元より引き返すつもりは毛頭無い。俺がこの世に生を受けたのは、きっとアイツに全てを捧げるためだったのだろう。体の弱い俺を残して死んだ両親や、感謝仕切れないような扱いをしてきた親戚連中、面倒事を嫌う残酷な子供達、そんなかつての環境を思えば、それは真理に思えてくる。アイツが 俺にはお前だけだ、などと口走るようになるもっと前から、俺はアイツに執着していた。痛む全身と膿む心で唯一思う、陽たる部分はアイツに関することだけだった。怨み言などなく、不甲斐ない思いも感じずに、ただ純粋に俺はアイツを思うことができた。距離感を測ることに神経を集中させながら、後方で振り切られないように がむしゃらに後を追った。やがて時折アイツが俺へ振り向くようになって、いつの間にか互いの束縛が鎖のように堅固なものとなっていた。逃げ場所をつくるようなこの行いが、アイツをジワジワと壊していくのを、静かに見守る俺が居る。静かに執念する俺が居る。俺が望むのはお前だけ。俺にはお前しか居ない。だからどうか、この腕の中を寄る辺として俺に執着をくれ。

2010/3/4 Thu 02:55


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