冬ぬくし



「冬場だからってバイトしないわけにはいかないだろ?」

 そう言うとあいつは何ともいえない表情を浮かべた。
冬は野山での収穫がない分、町へおりて稼ぐことが多くなる。特に洗濯の仕事はかなり増えるのだ。あかぎれた指を構うことなく水に浸し続ける。感覚なんてとっくにない。

 しばらく黙していたあいつは不意に「手伝うよ」と言った。
余りにも小さな声だったので聞かないふりをしたのに、今度はハッキリした声で同じ言葉を放った。動きを停めて見上げると予想に反してあいつは笑みを浮かべていた。苦い笑みだ。

 呆気にとられた俺が何も言わないと、あいつは俺の隣に座り込んで水に手を突っ込んだ。冷たいはずなのに何も言わず、籠の中の洗濯物を洗い出す。

「団蔵、無理するなよ」

 あいつの手を水の中から引き上げる。荒れきった俺の手に反して綺麗な手だった。

お前まで、やる必要はない。

 すると逆に手を握られて、温度のなくなったような手にあいつの体温が伝わった。内職や子守などと違い、これは他人に手伝わせるには幾分過酷な仕事だ。だからこそ、同室のふたりにも内容を話さずに出てきているのだ。

「きり丸は無理してるのに?」
「そういう、問題じゃないだろ」
「そういう問題だと思うけど」

 さも当然のことのように呆気にとられた表情を浮かべた後、あいつは再び白布を洗い始めた。俺はとうとう何も言えなくなってあっけらかんとあいつを見ていたが、不意にこちらを向いて笑みを浮かべられ、気恥ずかしくなって洗濯を再開する。

 __変な奴

 あんなに冷たかった水が、少し温かくなった気がした。



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