変わらない/しん風(クレヨン)



※映画、オラの花嫁後、高校生



未来は変わるんだぞ、

 そう言って飄々としている相手を前に暗くなった気持ちは黒く淀んだまま、僕の心の中に巣くい続けた。それは高校に入り、しんのすけと離れてから十年の月日が経った今でも同じである。時折こうして会うことはあっても、学校が違うというのはかなり大きな溝となって僕らの間を侵蝕している。思えば、幼稚園で一緒だっただけの友達と、高校生になった今でも付き合いがあるというのはかなり珍しいことなのかもしれない。相変わらず女性に目がないあいつは擦れ違う美人に鼻の下をのばしていた。

「もうついてくるなよ……」
「どうして?」
「僕はこれから塾」
「一日くらいサボっちゃいなよ」
「そう言って何回も付き合わされた」
「そだっけ?」

 白々しく言い放つしんのすけはまたせわしなく視線を動かしていた。もう慣れた。けれども話している相手の方を一向に向かないというのはいかがなものだろうか。無意識の内に人通りの少ない道へと足を進めていたことに自己嫌悪をしながら、近道だからと言い訳を繰り返す。

「風間くんは中学の時にお受験したから、大学までは勉強必要ないはずじゃない」
「お気楽なお前とは違うんだよ」
「相変わらずつれないのね」

 わざとらしい言い回しにうんざりして肩を落とす。自分のペースに周りを巻き込むのはこいつの専売特許だ。

「兎も角、もう付きまとうな。というか受験期にもフラフラしていて、よく高校に入れたな」
「何とかなるもんですな」
「お前を見ていると惨めになってきそうだよ……」

 人通りの少ない道でも、律儀に信号を守る僕に付き合って、しんのすけも歩みをとめた。車の影もない狭い道路の静けさが、やけに僕を焦燥的な気分にする。一緒にいるのが当たり前、になる程には、僕らは時間を共にしていない。

「付きまとうの、やめる」
「え……?」

 車道の信号が黄色から赤になり、歩行可能を知らせる青いランプが光った。しかし相手の横顔を見ることに集中していた僕は歩みを再開することが出来なかった。これは、かなりダメージが大きい、のかもしれない。

「あと二年だけ。高校卒業までは付きまとうけど」

 どう答えていいのか分からない僕は結局、青いマークが点滅しても信号を渡れずにこちらを一瞥もしない相手を見詰め続ける。何か言わなければと焦れば焦るほど、混乱した頭は真っ白になる。車道の信号が青になるが、通る車体は疎らである。

「どうして、二年……」
「だって」

 ようやくこちらを向いたしんのすけは、見慣れない大人びた表情で、既にしてしまった声変わりのままに、滅多に見ない真剣な表情を和らげ、言い放つ。

「十八になったら、結婚を申し込んで年中一緒にいることになるから」

 誰に、とも馬鹿じゃないのか、とも男同士では無理だ、とも女好きなくせに、とも言えずに、僕の視界は滲んでいった。
未来は変わる、そんな言葉を放った口で、保証もなしに言わないで欲しいのに、今僕の中を占めるのは泣きたいほどの幸福だった。





移り気な君が
十年以上も変えない事実、


Back
Top

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -