捕らわれたけもの/しん風(クレヨン)



「同世代には興味ないのね。このままいくと好みが熟女とかになるんじゃないの?しんちゃんって同世代にはとってもよくモテるのに、勿体無いわよねぇ」
「でも、理想との年齢差はなくなってきてるよね」
「まぁね、でもしんちゃんって、なんか手に入る守備の女には燃えないって感じするのよ。追いかけていたい、みたいな」
 久々に集まった幼なじみのメンバー。しんのすけの遅刻癖は相変わらずなおっていないらしく、やはり自宅までひっつかまえに行けば良かったと思った。どうせまた、昼寝でもしているかグラマラスな女性に声をかけているか。アイスコーヒーの氷が溶けていくのを眺めながら、ネネとまさおのしんのすけ話に耳を傾ける。

 遊びが仕事だった時期を過ぎつつある今、風間の場合、仲間内での会話はもっぱら勉学や進路のことであり、一般的な学生は恋愛の話題に夢中なのだそうだ。ネネの発言の鋭さや、それゆえのえぐさは常に進化を続けている。しんのすけの読めなさも更に進化し続けており、成長自体はまったくしていないと感じるのに、益々扱いが厄介になるのでお手上げだった。

「僕、そろそろ予備校に行かなくちゃ」
「えぇっ!もう?」
「今日は実力テストの日だから、予習の時間分早く行くんだ」
「なぁんだ、つまんないの」
「次はいつ会えるの?」
「うーん、夏休みはみっちり夏期講習があるし、お盆には出かけるだろうしなぁ……」
「相変わらず不健康ねぇ」
 予定を追々知らせると告げて、腕時計で時間を確認した風間はテーブルに代金を置いて鞄を持ち上げる。三人に挨拶を済ませ、結局飲み干せなかったアイスコーヒーを一べつして店を後にした。

「しんのすけのやつ……ほんっと無神経だな」
 せっかく久々に顔が見れると思ったのに、と考えて頭を振る。

「まあ別に、僕はアイツが来ても来なくてもって感じだけど」
 自分自身に向けたような言い訳に鼻を鳴らし、大通りを抜けると、噂をすれば影とばかりにしんのすけの姿が目に入る。作詞作曲がしんのすけに違いない、意味が分からない鼻歌を歌いながらフラフラと歩いている。商店街を歩けば有名人な彼は肉屋のおじさんや魚屋のおばさんに声をかけられていた。ちなみに、幼い頃から手伝いをさせられてきたしんのすけの家庭スキルは目を見張るレベルに達している。進んでやることはないが、やれば平均以上にこなしてしまう。ただ、真面目に取り組むことは稀である。

「おい、しんのすけ!」
「風間くん」
 小走りで近付けばようやくこちらに気付いたらしいしんのすけが、「よっ」と軽い挨拶をする。
「よっじゃないよ。みんな怒ってるぞ」
「みんなって誰が?」
「ネネちゃんとマサオくんとボーちゃんだよ」
 相槌を打つしんのすけに苛立ちを抑えながら、それでも不機嫌が表れたぶっきらぼうな声で「早く行けよ」と念を押して側を通り過ぎる。しかし手を掴まれてバランスを崩し、危うく転びそうになった。

「……何、するんだよ」
「風間くんどこいくの?待ち合わせはそっちじゃないぞ。全くそそっかしいんだから」
「いいかしんのすけ、僕はこれから予備校なんだ」
「風間くん学校いくの?まさか補習ってやつですか?」
「違うよ!お前と一緒にするな!っていうか手を離せ!」
「もぉ、風間くんったら相変わらず照、れ、屋、さん」
「くっつくな!触るな!!」
 なんとかしんのすけの手を離れたものの、確かに「じゃあな」と言って背を向けたはずなのに、お構いなしに彼はあとをついてくる。

「……何の用だ」
 歩みを止めて振り返ると、なぜそんなことを聞くのかとでも思っていそうな、呑気な表情がそこにある。

「風間くんをお守りしようかと」
「何からだよ、何から」
「いやぁ、……暴漢とか?」
「意味分かってんのか。みんなの所へ早く行けって」
「今更十分や二十分遅れても、変わらないでしょ」
「お前なぁ……」
「早く行くんでしょ?」
 再び手を取って歩き出すしんのすけの後ろ姿に、「道知ってるのか?!」と問えば、「知らなーい」の一言。呆れながらも、今の所方向は合っているのでそのままにしておく。例えば今ここで、美人なキャリアウーマンが通りかかったら、しんのすけは躊躇なくこの手を離してそちらへ駆け寄って行くのだろう。

『しんちゃんって、なんか手に入る守備の女には燃えないって感じするのよ。追いかけていたい、みたいな』

 その通りだと思う。この手を離されることに、寂しさが浮かんでしまう風間は、もう既にしんのすけの手中に入りかけているのだ。いつ飽きられるか、などと自嘲的な考えを浮かべながら、人通りの少ない道を指定して、予備校への遠回りをしていた。

2012/7/4(Mon)

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