恋の盲目になる前に/西南(新鮮)



 システムで管理するならば、思考も奪ってしまえばいいのに。そんな情けない恨み言を思考してしまう程には、僕は酷く弱っていた。感情なんてあるから鈍る。

 僕らの世界は、大きな矛盾をはらんでいる。世界全てを不幸に貶める役割の僕らが、幸福を感じるという矛盾。目をそらし続けているその幸福というものを理解してしまえば、きっと取り返しがつかなくなるのだろう。システムで管理された僕らはレールの上を着実に歩み、そうあるべきだと感じていた。しかし、そのレールは酷く惰弱であり、己の揺らぎ次第で容易に脱線してしまうのだということを、少なくとも僕は理解していた。だからこそ、流されてはならない。じくじくと痛む胸を抑えて、顔色一つ変えてはならない。

 残酷だ。本能として刻まれているものに駆り立てられてなお、抵抗し続けなくてはならないこの苦痛。それを知るよしもないお気楽な相手は今日もまた僕を追い詰めるのだ。

「サウラー」

 熱を帯びた囁きに、泣きわめきながらもう止めてくれ!と叫んでしまえたら幾分楽だったのかもしれない。彼はこの世界に馴染みすぎたのだ。同じく僕自身も。彼は単純一直線大馬鹿野郎だから、きっと僕の憂いなんて理解せずにいずれ消化してしまうのだろう。それに僕が流されたとき、どうなるか分かるかい?分かるはずがないだろう。こんなに明快な事実なのに。きっと彼の存在自体バグなのだ。それが僕に伝染してしまう。迷惑甚だしい。僕まで、こんなに辛い思いをしなくてはならないなんて。根本で忘れてはならない事実、存在の根幹、遵守すべき基本。僕らに、個人なんて許されない。だから

「離れろウエスター。男同士なんて、気色がわるい」

 僕らの寄り添う相手は管理システムの下、割り振りで決められている。どう足掻いても男同士である僕らは結ばれない。管理こそ全て。僕らは母であり父であり、自身であるメビウス様に余すことなく捧げなくてはならないのに。存在している事実を否定してまで、愛を囁く勇気があるかなんて、この馬鹿にはやはり理解できない論点なのだろう。


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