戯事(R15)/シンジュ




 内太股に噛み付けば情欲に濡れた唇からしどけない声が漏れだした。いつも皮肉と嘲笑と悪口で固められているその唇が愛らしく見えるのはこの一時だけである。赤く残った痕を舐め上げながら、開かれた隙間へと指を進める。いつもは他人を見下ろし嘲っているジュダルはどういう訳かこういう行為の中では痛みを好んだ。酷くすればその声には色が増し、潤んだ瞳は乞うように細められる。

 律動に揺れる体にうっすらと浮かんだ汗はシンドバッドの味覚から脳を刺激する。麻薬のようなその味にぼやける思考を何とか保ちながら、それでも倒錯的に、相手の膝を掴む指を食い込ませた。

 ジュダルは美しい、というよりも独特の色気を備えている。それは色事にあまり興味を示さないシンドバッドの意識すら掴んでいた。立ち昇る濃密な芳香が鼻を突き、誘うように反り返る細い体を抱いて顔を埋める。急かされるままに衝動を彼の体内に打ち付ければ、甲高い声が耳を突いた。女性との交わりとはまるで違う、細く筋肉質な体に抱く感情を持て余しながら、シンドバットは踏み誤った自分の道を後悔した。とはいえ彼自身そちらの傾向は持ち合わせていないので、相変わらずこのような感情を抱くのはジュダルに対してのみであった。
 恋人のようだ、と笑えない冗談を頭に浮かべながら、シンドバッドは相手の細い腰を掴む。

「こうしていると、犬のようだな」
「ふざ、けんな!」
 悪態をつくのと同時に深く抉り込めば、開きっぱなしの唇から漏れるのは意味のない嬌声になる。顔を寝具に埋めると同時に篭もった音になるそれを聞き過ごしながら、衝動を打ち付けた。向かい合ってまぐわうことには大きな抵抗があった。一方的に犯しているような罪悪感よりも、相手との甘い交わりの方が数段耐え難い。

 シンドバッドはジュダルを抱くとき、彼に自分の奥底を掻き出されているかのような感覚を得る。自分らしくない熱い吐息、余裕のなさ、意地の悪さや非情な面。そういったものこそ好物であるというように、ジュダルは惜しみなく声を上げる。動物じみた行為にプライドの高いジュダルが従い、そのなかのイニシアチブを譲っているのは偏に、内情としては彼が主導権を握っているからに他ならない。また同時に、彼を後ろから抱くのは相手の表情に惑わされたくない心と、こちらの顔を見られたくない思いもあった。

 シンドバッドの惑いや罪悪感を喰らって艶美に嗤うジュダル。子供じみているにも関わらず世界を知り尽くしているかのようなジュダル。自分の下で快楽の苦悶に喘いでいる彼はさながら夢幻のようなのに、その熱は確かに伝わってくる。高い体温と同化していく己の温度に感じる心地よさを、シンドバッドは認めるわけにはいかなかった。

 半ば解けかけている髪に手をかけ、完全に解いてやるとサラリと散った束が彼の背中や腕にはりついた。梳くようにそれを絡めながら、急かされるまま動きを再開した。快感の高まりは確実にシンドバッドを支配する。それでも拭いきれない罪悪感だけは覆い隠してはくれなかった。彼の中に熱を放つのも、何かしらの足掻きのように見えて、シンドバッドは少しだけ後悔をした。ずるりと抜き取る、生々しい感覚の後にジュダルの太股を濡らした白液をいちべつし、彼は瞳を伏せた。

 ジュダルが体を起こしたことにより、流れ出る僅かな瑕疵は寝具を濡らしている。相手が髪を掴み、勢いのまま唇を押し付けてくるのを受け止めて応える。彼にとって口付けは愛情確認ではなく、ただの快楽のための方法だとか、シンドバッドの後ろ向きな感情を煽るだとか、そういった意味を持っているらしかった。首に回される腕が揺れる。かかってくる体重を受け止めながら、どこか甘さとは掛け離れた、それでも情熱的な行為に脳が混乱を来してくる。

 濡れた唇を舐めながら、真っ直ぐに見つめてくるジュダルの戯笑は、シンドバッドの意識にこびり付いて離れなくなる。深層に入り込む術を、彼は無意識の内にも心得ている。そうしてまた、囚われたようにシンドバッドはジュダルを抱くのである。


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