同属好意/兵きり




 優しさというものは慣れれば慣れるほど足元に絡みついて身を膠着させていくもの、と頭の片隅にあったからなのだろう。怪我をすれば大騒ぎをする、は組の面々のなかでひとり、冷静な目を向けてきた相手に惹かれてやまなかった。

 忍であることの本質を知り得てくるのは、学年があがるごとであるが、いかんせんは組の面々はいい意味での純粋さを欠くことなく、いつまでも情深かった。忍に向かない性質を持ちながら、落伍者を出さない面に関しては皮肉としか言い様がないが、ひねくれ者であった自分が次第にすれていくことで感じる距離感というのは、ふとした瞬間に心を締め付けた。

 しかしながら、いや、であるからこそ、部屋で人を貶めるカラクリ研究を続ける学友の存在は自分の心をとらえてやまなかった。おおよそあいつは人を助けるためよりも、人を引っ掛けるための仕掛けを黙々とつくっている。俺と同じく、は組の中では歳とともに皮肉が増してきた印象があった。

 今日も俺は危険極まりないその部屋へ足を運ぶ。一年の頃はあれだけ避けていた彼の部屋は、慣れてしまえば侵入も易い。何やら設計図を傍らに細かい仕掛けを組み立て、解体を繰り返している背中に顔を埋めるが、彼は意に介さず熱中するのを止めなかった。これだからいい。甘え甲斐があるではないか。

 優しさを与えられないことに安堵して甘える自分の天の邪鬼さを改めて感じつつ、柔らかな髪に鼻先をつけた。恩師や親友の二人や熱さを増してくる馬借の息子は、優しさを携えて手を広げているからこそ、俺は彼らの前で決して弱音が吐けない。

 その背中に耳を当てながら体の音を聴き、体温を感じる。眠りについている時よりも満たされていく。

「できたーー!」
 ようやく顔を上げた相手が、完成したカラクリの具合を見直す。ひとしきり満足したあとにやっと俺の存在に気づいたように、「どうりで途中から作業し辛いと思ったよ」と肩を竦めた。

「兵太夫」
「なーに?」
「これからもちょっと性格歪んでるお前でいてくれよ」
「えー、きり丸には言われたくないよ」
 そんな言葉とともに笑い飛ばした相手の揺れが直に伝わって、胸に灯をともした。

 ――愛してるとか好きとか以前に、俺にはこいつが必要不可欠なんだ。



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