文→食満



好きな女ができた。
だからそいつに告白した。
返ってきた言葉は

「ふざけてんのか」

だった。



「予算はやらん!!このバカタレ!!」
「バカタレとはなんだ!?このギンギン野郎!!」
「まぁまぁ、2人ともちょっと落ち着い…」
「「伊作!お前は黙ってろ!!」」

落乱高校に通う3年の食満と潮江は犬猿の中と学園内でも有名な存在だ。
だが、2人の関係には秘密がある。
その張本人である俺、潮江しか未だに知らない秘密が。

「しょうがないよ留さん。文次郎はこれが仕事なんだから」
「……でもよー…」
「ね?」
「……ん」

伊作は食満と顔を合わせば喧嘩になる俺とは違い昔から仲がいい。
真実かは知らんが、もっぱら付き合ってるとか言う噂もある。
確かに俺から見てもお似合いの2人だ。
ただ、それでも俺は

食満の事がすきなんだ。



最高学年と言うのは何かと大変だ。
さらに俺は、生徒会役員(会計)ときた。
おまけきこの高校は生徒の自立などを目的に、生徒会、各委員会の委員長、各クラスのHR委員を中心に生徒達自身がより良い学園づくりに取り組むような方針がとられている。
つまりは、嫌でも用具委員長を務める食満や保健委員長の伊作と顔を合わすはめになることを意味していた。
現に今も週に1度の委員会会議中だ。
その事に無駄に神経を使わされる。

「では、今日の会議はここまで」

1人、物思いにふけていると、いつのまにか時間は過ぎていたようで、いつものように生徒会長の言葉で会議が閉じられた。
その直後に声をかけられた。

「あの、潮江先輩」

声の主はもう1人の生徒会会計を務めている後輩の田村だった。

「どうした?」
「あの、学園祭の各クラスの予算についてなんですが…」

田村は申し訳なさそうに言うがコイツはまだ1年。
仕事に不慣れなのはしょうがないし高校での学園祭など初めて経験することについてならなおさらだ。
それを手伝ってやるのも先輩の務め。
その為にも会計や書記等の役職には3年生と1年生が1名づつ就いているのだ。

「…そうですか。わかりました。潮江先輩、ありがとうございます!」
「いや、気にするな。それよりお前、早く射撃部の方に行かなくて良いのか?」

田村は生徒会だけでなく射撃部でも1年生とは思えない素晴らしい選手だと聞いている。
会議室を見渡すと俺たち以外はただ1人を残し皆が帰っており、田村もそれだけの時間が過ぎていた事に気付いたようだ。
再度俺に例を言いあわてて部屋を出ていった。
さて、ここで問題が1つ。
その残っているただ1人が食満なのだ。
無視をして帰ってもいいが、話しかけるチャンスであるのには違いない。

「お前は帰らないのか?」

どうしたものかと考える暇もなく自然に言葉がでてしまった。
食満もまさか話しかけられるとは思っていなかったようで意外そうに答えた。

「伊作待ってんだよ。雑渡先生に呼ばれたとかで」
「そうか……」

しばらく沈黙が続いた。
その沈黙が耐えがたかったのか、次に口を開いたのは意外にも食満だった。

「お前さ、」
「なんだ?」
「普段は喧嘩ばっかだけどよ、ちゃんと後輩の面倒みたり……その、意外にイイ奴なんだな!」

食満は、笑った。

ただそれだけ。
食満はよく笑うやつではある。
しかし、俺だけに対して向けられた笑みはこれが初めてなんじゃないか?
そう思うと不覚にも胸が高鳴った。
そしてただそれだけなのに、気持ちがはやまった。
いてもたってもいられなくなる。
その片隅では自分はこれほど不器用だったのかと冷静に分析していた。

「……お前、伊作と付き合ってるのか?」

気がつけばこんなことを聞いていた。
付き合っているならどうなんだ?
伊作から食満を奪うとでも言うのか?
それとも食満を諦めると言うのか?
どちらにせよ俺には無理なことだ。
ただ、付き合っていないなら良い。
そんな甘い考えがあったのかもしれない。

「あ?お前には関係ないだろ?」

あまり他人に、ましてや俺に触れられたくなかったのか、急に不機嫌になる食満の声音。
その声音に焦ったのか、不機嫌に言われた時の反射か、「関係ない」と言う言葉に傷付いたのか。
自分の中で何かがプツンと切れたのを感じた。

「関係なくない!!」
「なんだよ、いきなり大声だして…」

感じた頃にはもう遅い。
言葉を濁すが焦る頭で言い訳も浮かばない。
………告白してしまうか。
そんな考えが過った。
3年間、ずっと言えなかったことだ。
今を逃せば多分、次はない。
よし、言おう。
そう決意して言葉を紡ぐ。

「食満、俺は…お前のことが好きだ」

ついに、言ってしまった。
だが食満から返ってきた言葉は…。

「……お前、ふざけてんのか」

頭が真っ白になった。
次に空っぽの頭に身体中の血液が登って行くのがわった。
怒り、悲しみ、後悔、羞恥。
いろんなものがグルグルとしていて我を失いそうになる。

気がつけば食満を机の上に押し倒していた。

無理矢理唇を奪い片手で服に手をかける。
食満は抵抗しようと俺の肩を押すが侵入してきた俺の舌に口腔を犯され手にうまく力が入らないようだ。
シャツのボタンを全て外し終えたところで唇を解放し食満を見つめる。
シャツがはだかれて初めて見た食満の肌はとても綺麗に見えた。

「……本気だ。おふざけでこんなことができるかバカタレ」

声を絞り出し食満の耳元で囁いた。
食満は、震えていた。
いつも俺と喧嘩ばかりしている気丈な奴とは思えないほど、その姿はただの女でしかなかった。

「……や、しお、え…!!やだ…!!いや!!」

今まで一度も見たことのない食満の一面。
食満の泣き面。
その泣き面はたとえ俺が拒絶されてるのだとしても俺を欲情させるにはこれ以上ない魅力を感じさせた。

「好きだ、留」
「…伊作、助けて!いさ…」

だが、やはりこいつの中にいるのは俺じゃない。
喧嘩ばかりの俺ではなくあの不運でヘタレだが優しい男。
仕方のないことだとわかっている。
でも今は食満の口から他の男の名前なんぞ聞きたくもない。

「いさ…」
「留、」

だから、不快な名を口にする食満の唇を自分のソレでふさいだ。

「やぁ!!!!」
「……っ!!?」

頬に鋭い痛みが走った。
食満が引っ掻いたのだ。
その痛みで我に帰った。

俺は、今何を…。
好きな女を恐がらせ、泣かせ、いったい何を…。

激しく襲ってきたのは後悔だけ。
俺に組敷かれている食満を冷静になった頭で見もう一度みる。
震え、泣いている。
必死に抵抗しようとしている。
本当に愛しい奴に助けを求めている。
こんな風にしてしまったのは、こんな思いをさせてしてしまったのは、間違いなく、俺。

こんな俺には食満を好きでいる資格などない。

未だ拘束していた腕を解放してやり手持ちぶさたになった手をそっと食満の顔に添えた。
食満の肩が大きくビクリと身動ぎ力が入るのがわかる。
それでも手を放すことはせず、目を真っ直ぐ見て、食満に今の思いを語りかけた。

「食満、許してくれとは言わない。だがお前が好きなのは本気だった。わかってくれ。あと、……悪かった」

俺は食満を解放すると、初めて食満に向かい謝罪の言葉を告げて静かに会議室を出た。
背中に嗚咽混じりに伊作を呼び、泣く、食満の声を聞きながら。







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