『ふわふわ』 『きらきら』
彼女に何かしらの擬態語をつけるとしたら多分こんな感じだろう。俺にとって彼女はとても輝いて見えた。
「辞さん」
彼女はよく名前を呼ぶ。 大好きな人に名を呼ばれるのは素直に嬉しい。 しかし、それは俺に限られたことではない。 彼女はとても社交的だ。
姉貴肌なのか、はらだや雪尋という少女のことは妹のように可愛がっている。 しかし、ジンと言う男性のことは『お兄様』と慕い、時折甘えた様子を見せるのだからなんとなく不思議に思えた。 クシコという女性、あるいは男性(正確には性別と言うものが存在しないらしい)のことは、良き友達らしく、よく彼女の口から聞かされる。 ただ杉田と言う男性とは、仲良くなりたいがなかなか目を合わせてくれないと残念そうに言っていた。 ただそれでも彼女の目は真っ直ぐで、まるで諦めることなんて知らない子供のようだった。
主人や芭朽、彼女でさえ。 俺たち謂わば家族のようなもの。 仲の良い友人と言えば晶良くらいしか思い浮かばない。 日芥や華音に比べれば内面的でもないのだろうが、俺は間違っても社交的と言うには程遠い。 だからか、余計に彼女が眩しく輝いて見えた。
彼女はよく名前を呼ぶ。 しかし、それは俺に限られたことではない。 わかっている。 固有名詞だったり、「マスター」や「お兄様」と言う自分との関係を表した名詞だったりする、だが特定の人物を示す言葉。 その言葉を口にする彼女はいつだって楽しそうだ。
「辞さん」
あぁ、また。 名前を呼んでまるで花が咲いたような笑みを向けられる。
「何だ?」
その笑顔を独り占めしたいと心から思った。 だが、出来ない。 俺にとって彼女は聖母、あるいは観音のような存在。 そんな彼女を独り占めするのは禁忌に思え、また彼女を独り占めする勇気も、できる自信ですら生憎俺には持ち合わせていなかった。
「呼んでみただけです。辞さんがあまりにも難しい顔をしてたので」 「……そうか?」 「あれ?自覚無かったんですかぁ?」 「あぁ、…そんなに酷い顔だったか?」 「酷くはないんですけどカッコいい顔が台無しですよぉ?」
今はこの笑顔が少しでも自分に向けられているだけで満足だ。 本気でそう思っているのか、はたまた自分に言い聞かせているだけなのか。 定かではないが、今はそう思うことしか出来なかった。
それなのに、俺は気づいてしまった。
「梓月さーん」
遠くて彼女を呼ぶ声が聞こえる。 その声を聞いたとたん、彼女がいつになく輝きを増したことを。
「ラバー君!」
彼女がいつになく嬉しそうに名前を呼び返したことを。
「じゃ、辞さん。私はコレで」
彼女には俺よりも大切な、誰より大切な、特別の誰かがいることを。
(うちの辞は梓月が好きです) (梓月は友人のとこのラバー君が大好きです) (ちなみに3人とも22歳)
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