『…何のにおいだ?』

休みの日の朝。
何時もならちょっと遅めに起きる銀二だったが、今日はどうやらそうはいかない。

こんなもんかなぁと、可愛らしい声が聞こえてくる。どうやらなまえが朝食を作りに来てくれているらしい。しかし、どう考えてもこの匂いは朝食ではない。やたら甘いのだ。

『あいつは朝からなにを食わす気なんだ…』

パジャマから私服へと着替えつつ洗面所へ向かう。ごそごそと支度を済ませつつリビングへの扉を開いた。

『おはようございます銀さん!』

ぶわっと香る甘い匂い。やはり朝ご飯ではない。というか、テーブルには何もない。

『一体なぁに作ってんだ?』

コーヒーを淹れようと台所に入っていくとそこには可愛らしいケーキと、それとは別にパンケーキが焼かれていた。

『朝ご飯にパンケーキはダメですか?』

可愛らしくトッピングされたパンケーキはとてつもなく食欲を誘う匂いがする。朝から甘い物はどうだろうと考えたが一生懸命作ったのだろう、お皿を手に持ちこちらを伺う姿に食べなければならない使命感にかられた。

『たまにはいいだろ。コーヒー…いや、紅茶をもらおうか』

パァァと顔を明るくして今すぐ淹れますね!とパタパタと準備するなまえが愛しくてたまらない。
抱きしめたくなるのをグッとこらえてテーブルで新聞を広げる。一通り目を通した所で紅茶とパンケーキを持ったなまえがやってきた。

『はい!味の保証はないですけどどうぞ』

『いただきます』

はにかみながら向かいに座るなまえが控えめに美味しいですか?と聞いてきた。
勿論答えなど一つしかない。

『あぁ。美味いよ。紅茶も丁度いい』

『良かった!』

ニコニコしながら自身も紅茶を啜る。ケーキは3時のおやつにしましょうねと言われ、ふと時計に目をやる。

『…これ食べたら出掛けるか?』

家でゆっくり過ごすのもいいが、せっかくの休みだと告げれば予想外とでも言いたそうな目でこちらを見てくる。

『いいんですか?』

『この間服が欲しいとか言ってただろ』

買ってやると付け足してやれば、ちょっとメイク直してきますと洗面所に引っ込んでしまった。
まぁ、このまま家にいた所でやることも限られるし、なにより喜んだ顔が沢山みたくて仕方なくなったのも事実。

『…支度するか』

食べ終えた食器を流しに入れ、自室へと足を運ぶ。
一回りも二回りも下の彼女を連れて歩くデパートを想像しながら、森田には見られたくねぇなぁと苦笑した。

(銀さん早く!)
(今行くからそうせかすなよ)

【メイプルより甘い君に】