カランカラン。
喫茶店の扉を開けてぐるりと見回せば、奥のほうのソファで寛ぎながらこちらに手を振るなまえが見えた。

『遅れて悪い』

「大丈夫。こっちこそ忙しいのにごめんね」

胸の前で小さく手を合わせ小首を傾げながら、毎日お疲れ様です、とはにかむなまえを今すぐにでも連れて帰りたい。
何飲みますかー?と間延びした声が聞こえて、コーヒーと伝えるとふふっと笑い声が聞こえてくる。

『どうした?』

「銀さんはどこに行ってもコーヒーですよね」

男の人ってコーヒー好きですよねーと言われて、確かにと思う。いつから好んで飲んでいるとかは当の昔に忘れてしまったが、気が付けばどこに行ってもとりあえずコーヒーだなぁと考えた。

『銀さん、これからコーヒーサイフォン見に行きませんか?』

いつの間に注文したのやら、コーヒーとカフェオレが届く。
ウェイターがサービスですと付けてくれたプレッツェルをポリポリ食べながら、なんでサイフォンなんだ?と聞く。

「コーヒーメーカーならうちにあるじゃねぇか」

『銀さん、それは違うよ』

人差し指を振りながら、私がサイフォンで銀さんに毎朝コーヒーを淹れたいの!と言われて、思わず笑いが零れる。

『なんで笑うんですか!』

「クククッ、や、悪い悪い」

それは俺へのプロポーズで良いんだよな?と聞けば、少し間を置いて真っ赤になったなまえが、素っ頓狂な声を上げて全力でわたわたし始める。伝票となまえをさらいながら、午後の仕事を全部キャンセルしてコーヒーサイフォンを探しに行こうと決意した。

(銀さん、あのね!あのね!)

(待ったなんか聞かねぇからな)


【MerryMarryCoffee】