01
胸に、そしてその背に十字架を背負った後ろ姿。それが私が見た彼の最後だった。
彼が村を出る夜、子供のように泣きじゃくる私を見て、彼は困ったように笑っていた。
"僕等は神の子だ。この戦いが神の御意思ならば、僕等は盾を取り、剣を翳さなければならない。君と出会えたのも神のおかげなのだから、恩返しに行かないと。これからもずっと一緒に居たいのに、恩知らずだと引き離されてはたまらないからね。"
ある者は愛する者のために、ある者は富と名誉のために、そして彼は未来のために剣を取った。
信心深い彼とは違い、神なんてまともに信じていなかった私には彼の言うことはそう簡単に理解できるものではなかったが、彼が未来のために行くと言うなら私はその存在を信じ、祈ろうと決めた。彼の心が動かない以上、そうする他なかったのだ。
"神のために"
多くの人々がその言葉を掲げて戦った。時に誰かの愛する人を殺し、時に誰かの守るべきものを奪い、何よりも、生きるために戦うしかなかった。
結局最後まで、彼の言う神の子供たちは互いを殺し合った。
「……神様なんて、居ないじゃない。」
呟いた言葉は、虚空へと消えていく。
焦土の匂いに、血に染まった大地。憎しみと悲しみ、勝者と敗者。残ったものはそんなものだった。家もない、家族も居ない、食べものもない。おかしなことに、彼も居ない。
「……。」
引き離されないために行ったと言うのなら、帰って来るのが道理というものだろう。恩だって十分返したはずだ。信心深い彼なら、神なんて信じていなかった私よりもずっと神とやらのために尽くしたはずだ。
ならば何故、彼は此処に居ないのか。
「……返して。」
答は簡単だった。彼は"聖戦"により、"名誉の死"を遂げたのだ。
信心深かった彼は、神とやらに尽くしに尽くしてその命まで捧げてしまった。
「あの人を、返して……っ。」
神になんか失望してしまえばいい。そうすれば神のためと言う理由は消えて、彼は帰って来てくれるはずだ。けれども残念なことに、私に彼を失望させる術はない。
だから私は、祈るしかないのだ。
悪ぶってよ、神様
(彼が帰って来るなら)
(貴方を信じて祈るから)
hypocrisy様に提出.
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