顔合わせはすぐに行われた。せっかくの顔合わせであったにも関わらず生憎天気には恵まれず、社は雨音に包まれた。
誰一人口を開かない現状に苦笑を零した龍懿は少しでも場を和ませるべく、順に名乗ることを提案した。
「い、一の位の子依と言います。」
片隅で震える少女が手を小さく挙げる。
「二の位、丑。」
「三の位、寅雷。」
「四、卯月。」
幼顔の女、浅黒い男、あどけなさの残る小さな少女。
「五の位、龍懿。」
「六の位、白蛇。」
「七の位、淘午です。」
「八の位、未斗と言います。」
長身の男に色白の女、生真面目そうな男に対して柔らかな笑みを浮かべる女。
「九は、俺!申。よろしくな!」
「十の位、酉。」
「十一番!亥だよ!」
快活に笑う少年の隣で長髪の男が緩く手を振り、その隣で少女が楽しげに笑う。
「十二は、俺。焔戌。」
最後に人懐っこい笑みを浮かべる男が手を挙げ一巡。気の弱そうな者に快活な者、個性豊かな面々を見渡し龍懿はゆるりと笑みを浮かべた。場の空気も和らいだだろう。そう思った。
「名前を名乗ったんだ。もう話はないだろう?部屋に戻らせてもらうよ。」
「そうですね。この任を拒む権利がない以上、明日から嫌でも顔を合わせるわけですから。」
「ったく、何で俺が……。」
そんな龍懿の想いを知ってか知らずか、和んだ場の空気を踏み付けるように三、六、七の位の面々が立ち上がった。残りの面々も他人に興味がないのか、特に何も言わずに表情一つ変えもしない。
「共に過ごすことになったからこそ初めが肝心。そう急くこともあるまい。」
「それは君の意見だろう?どうせなるようにしかならないんだ。好きにさせてもらうよ。」
「俺もそいつに賛成だ。別に……。」
「ま、待って!」
『!』
僅かに険悪さが伺え始めたその時、声を上げたのは一の位に座していた子依だった。寅雷の服の裾を掴むその手は目に見えて震えている。
「わ、私、は、はじ、初めての人ばかりで怖くて…っ、だから、その…、出来れば……。」
「ちょ…っ。」
元々気の弱い性格らしい。加えて掴んだのはよりにもよって気の短そうな寅雷の服である。大胆過ぎる行動を取った子依だったが、最後まで言い切ることが出来ないまま言葉より涙を零し始めた。
『……。』
「俺のせいじゃないだろ!」
突き刺さる冷ややかな視線に、寅雷が抗議の声を上げた。