生前も浴びせられた分を抜けば酒を口にしたのは一度か二度程度であったように思う。元よりそういう体質だったのかもしれないが、この身体になってからは尚更酒を受け付けなくなった。
まぁ、少しくらいなら嗜みはするけれど。
「……。」
「いい加減、機嫌を治してくれてもいいだろう?」
「……気持ち悪い。」
「知っているとも。」
愚痴を零す白蛇に酉はカラカラと笑い、さらに盃を傾ける。
「他の誰かに頼みなよ。」
「付き合うだけなら他の誰かでもいいよ。でもねぇ……」
「私は欲を満たす道具じゃない。」
「……そんな意地の悪い事を言わなくてもいいじゃないか。」
「……。」
「白蛇。」
「ちょっ……」
背を向け横たわっていたことをいいことに、白蛇は酉の再び腕の中に引き戻された。
「冷たいね。」
「……一応確認するけれど、どっちの意味で?」
「さぁ、どうだろうねぇ。」
「……。」
聞いた自分が馬鹿だった。そう視線で訴えれば尚更酉は楽しそうに笑った。
「ん……。」
「眠いのかい?」
「……少し。」
「少し眠るとしよう。」
「このまま?」
「夢の中まで追ったりしないよ。」
「……。」
呆れと共に溜息を吐き出す。
一体何が楽しいのか。付き合わされるこっちはいい迷惑だ。毎回毎回逃げられると分かっているくせに。
「……酉?」
考え込んでいると耳元を穏やかな吐息が擽った。
「酉……。」
「……。」
「……。」
一定の速度を保つそれは、間違いなく寝息のそれだ。
「……もういい。」
深く、腹の底から溜息を吐き出す。起こしたところで大して変わりはしないだろう。
どうにでもなれ。取り残された白蛇は半ば投げやりに目を伏せ、穏やかな呼吸に誘われるように意識を手放した。