結局酉から逃れるべく走り出した白蛇は廊下を歩く龍懿に飛び付いた。
「龍懿!」
その肩に手を回す。
「やれ、白蛇。待ちやれ。」
「無理。」
そのまま龍懿の体を登る。
読んで字の如く、蛇が木に登るように登るのだ。
「白蛇……」
「来るなと言ってるだろう!」
安全を確保した白蛇は、龍懿の上から酉へ吠え立てる。
「さっきから五月蝿ぇ。こっちは二日酔いだっつーのに……」
今度は上から文句が飛んで来た。
顔を出した寅雷は眠っていたのか、寝癖の残る頭を抑えている。
「……つーか、毎回どうやって登らせてるんだよ。普通途中で体勢崩すだろ。」
「白蛇が器用でなァ。そうでなければ、非力な我では堪えられまい。」
『……。』
「……はて?」
白けた視線が龍懿に集った。
うそつき、その言葉を三人揃って飲み込む。
「さて……」
気を取り直して酉が白蛇へと手を伸ばした。対する白蛇はその手を避けようとさらに上へと足掻く。
「!」
不意に、龍懿が上に乗る白蛇の手を掴み、その身体を腕の中に納めた。
「盃の一つや二つ、害にはなるまい。」
「一つ二つで済まないから君に助けを求めたんだろう!絶対嫌だ!」
「いい加減諦めろよ。どうせ丸め込まれ……」
「寅雷は、黙ってなよ。」
「八つ当たりかよ。」
「やめぬか。白蛇、主も主よ。」
龍懿は溜息を混ぜながらも白蛇の背をあやすように撫でた。
白蛇は尚も反抗しようと口を開いたが言葉が続かず眉間に皴を寄せた。徐々に龍懿を押し返す腕の力が弱まる。
「酉、程々にな。」
「龍懿……!」
「分かってるさ。」
一瞬の隙を突いて白蛇は酉の手へと移された。
「だから言っただろ。」
「だったら、寅雷が……、……!」
「ほらほら、しっかり掴まらないと落ちるよ。」
抗議するより早く肩へと担がれてしまう。
再び床が遠ざかり、自分より広い背中が視界に広がる。
「……もういい。」
もう何も考えたくなくて、白蛇はただその目を伏せた。