飛び込んで来たのは卯月だった。
良い子良い子、聡い子賢い子。そう繰り返して龍懿が小さな背を撫でると卯月は龍懿の腹に顔を埋めたまま眠りに落ちて行った。
「龍懿。」
「白蛇……。」
「入るよ。」
「静かにな。」
「やはり此処か。」
中に入って来た白蛇は呆れ顔で溜息を落とした。
「叱ったわけではあるまい?」
「叱るどころか何もしてない。」
「ならばそれが理由であろ。」
「寅雷達と居たんだ。……嗚呼、焔戌が呼んで来て欲しいって。」
「やれ、我にも手の余る話と言うに……。」
「……。」
大袈裟に肩を竦める龍懿に、白蛇は押し黙った。
その気になれば赤子の手を捻るよりたやすく納めてしまうくせに。そう言いかけて言葉を喉の奥に追いやる。
「……卯月は連れて行くよ。」
「?」
「休みたいんだろう?」
「……。」
「……ほら、気が変わらない内に。」
「白蛇。」
「?」
白蛇が卯月へと手を伸ばすも、その手は龍懿の声に遮られた。
「ならば膝を貸しやれ。」
「はぁ?」
「主に貸しても良いが……」
「……本気?」
「本気よ、本気。」
何を考えているのか、龍懿はただ悪戯に笑う。
そんな龍懿に溜息を落とすと白蛇は龍懿の隣に腰を下ろした。
「焔戌が泣くだろうね。」
「我は何も知らぬなァ。」
「……変に器用だね。」
器用にも龍懿はその腹に卯月を乗せたまま倒れ込んだ。頭はしっかり白蛇の膝に乗せられている。
「……何も出来やしない。」
「ならば……」
「な……っ!?」
そのまま龍懿は白蛇の頭に伸ばした。突然のことに白蛇は畳に倒れ込み、これまた器用に龍懿は頭を倒れた白蛇の腹部に乗せた。
「これで解決よ。」
「……これだと、私まで共犯じゃないか。」
「それも良かろ。」
白蛇の不満も何のその、龍懿は静かに目を閉じた。やがて諦めた白蛇も目を閉じ、眠りへと落ちる。
そんな寒い冬の一日。
.