三千世界を射た者 | ナノ


02

 もう限界だと目を閉じると柔らかな風が頬を撫でた。

「……ん。」
「起こしたか。いや、すまぬ。されど風邪を引かせるわけにもいかぬ故……。」
「……ありがと。」

 少しだけ目を開くと龍懿が居た。
 着ていた上着を肩に掛けてくれたらしい。日差しのせいか少し暑くも感じるが、それも眠るまでの間だろう。

「龍懿さん、こちらに……。あら?丑さん、今日は此処でお昼寝ですか?」
「未斗……?」
「ごめんなさい。起こしてしまいましたね。」

 今度は未斗だった。

「未斗、何か用があったのであろ?」
「そうでした。実は卯月を探していて……。」
「白蛇のところでなければ、散策に出掛けたか……。我も共に行くとしよう。」
「お願いします。」
「……。」

 二人の会話が頭上で流れて行く。
 眠気さえなければ手伝ってもいいのだが、やはり眠い。あと面倒臭い。

「焔戌に迎えを頼むとしよう。好きなだけ眠れ。」
「……ん?」
「いや、気にするな。」
「……?」

 龍懿の言葉が上手く聞き取れない。
 目を擦って眠気を払おうとすると、その手を掴まれそっと下ろされた。眠っていいということなのだろう。龍懿がいいと言うなら淘午だって許してくれるはずだ。

「参ろうか。」
「えぇ。」
「いっ、て……。」
『?』
「いって、ら、っしゃ……ぃ。」

 何とか言い切った。
 甘い香りは未斗が何かしてくれたのだろう。尚更眠くなってしまった。遠くで大きな音がした気もするがもう限界で、丑はそっと目を閉じた。
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