柔らかな日差しはいつだって眠気を誘う。とは言え、雨の日だって眠いことには変わりはないのだけども。
「丑!」
「……。」
廊下に寝そべっていた丑は、呼ばれた自分の名前に視線だけ動かした。
「寝るなら自分の部屋にしてください。いくら日差しがあるとは言え、風はまだ冷たいと何度も言っているでしょう。」
「……。」
「……立ってください。」
「やだ。」
「……。」
淘午に掴まれた腕が力無く垂れ下がる。
拒否の言葉を紡げば、淘午の眉間に皴が寄った。彼はよく皴を寄せるが跡が残ったりしないのだろうか。そんなことを寝ぼける頭の片隅で考えて、けれど口にするのは面倒に思えて開きかけた口を閉ざした。
「ちーうー!」
『?』
ついでに目を閉じようとすると慌ただしい足音と共に、再び名前を呼ばれた。
「亥!」
また淘午の叱声が飛んだ。
どうせ聞き入れられるわけがないのに。ぼんやりと思うけれどやはり口にはしない。
「丑!その胸ちょーだい!」
「な……っ!?」
「……痛い。」
突然胸を掴まれた。
「ちょーだい!」
「……いいけど。」
「本当!?」
「うん。」
まるで菓子でもねだるかのように、やって来た亥は胸を鷲掴んだまま目を輝かせていた。
「……あ。」
「?」
「どうやって取ればいいんだろう?」
「……さぁ?」
胸を掴む手を払う気にもなれなくて、とりあえずしたいようにさせているがそれさえ面倒臭い。持っていきたいなら自由に持っていって構わないが、方法は自分で考えて欲しい。掴まれた胸の内はそんなところだ。
「うぁ!!」
不意に、亥が引きはがされた。
「亥、誰に何を言われたんですか……?」
「んとねー、寅雷から逃げててー、女の子なのにって言ってー、色気もないくせにって言われてー……。」
「十分です。」
指折り数える亥に淘午が眉間の皴を濃くした。
彼の心中を表すかのように空気中の水が集まっては弾け、火花のように音を立てている。
「丑、貴女はちゃんと部屋に戻ってください。亥、寅雷の所へ案内を。」
「いいよ!こっち!」
胸のことなど忘れてしまったのか、亥は淘午の手を引き跳ねるように歩いて行った。