子依の起こした騒動のおかげで、空気は一気に和らいだ。初対面にも関わらず亥は申と共に騒ぐだけ騒いで眠りについていたし、途中から眠り始めた丑は淘午が悪態をつきながらも部屋に連れて戻っていた。どうにか上手くやっていけそうだ。
龍懿にとって予想以上の結果だった。
「!」
自室に戻ろうとして、足が止まった。
「……白蛇?」
「龍懿か。……そんなに驚くことはないだろう?」
「主とて、そう睨むこともなかろう?」
「睨んではいないさ。」
自室へと続く廊下に座り込んでいた白蛇は、軽く肩を竦めると庭先に視線を戻した。
未だ止む気配のない雨は、おそらく明日まで降り続くことだろう。五月蝿いと言うほどでもないが、あまり心地のいいものでもない。
「蛇の対極として鼠を据えるなんて"食ってしまえ"と言ってるようなものじゃないか。……何を考えているんだい?」
「はて、我には何のことやら……。」
「……そう言うと思ったよ。」
惚ける龍懿に白蛇は笑う。
その刹那、柔らかな視線は鋭いものに、細められた目は龍懿を捕らえた。
「礼は言わない。……此処もあの場所と同じだ。」
白蛇は一言吐き捨て立ち上がると龍懿に背を向けた。
実のところ、二人の付き合いは長い。白蛇がこの社に身を置くことになったのも龍懿が関係していた。しかし、その意図は読めない。わざわざ上の反対を押しきってまで何故連れ出したのか。白蛇はそれがどうしても引っ掛かった。
「白蛇。」
「?」
「ゆるりと休め。」
「……。」
背中へと掛けられた声に緩く振り返る。こちらの心情を知ってか知らずか、龍懿は緩やかな笑みを浮かべていた。
「……あぁ、おやすみ。」
食い下がるのも馬鹿らしく思えて、白蛇は緩く笑った。