ガラスの器に盛りつけたかき氷にスプーンを挿す。雪を踏むようなその音は何処か涼しげだ。小豆の混ざるそれに牛乳をかける。この食べ方が邪道かどうかアイツと言い争ったのは、いつだったか。
「……。」
冷たさに頭が痛み、思わず眉が寄る。
「!」
そんな俺を励ますかのように、花火が夜空に咲いた。
「……。」
赤や緑、青や橙、惑星にハート、色も形も様々で、定番の花火もあれば、新しいものもある。
それを二軒の家に挟まれたこのベランダで眺めるのが、俺とアイツの夏だった。
「なぁ…」
向かいへと視線を向ける。
「……。」
そこにあるのはアイツではなく、明かり一つ点かない、物静かな部屋だった。
「……。」
自分に呆れて、溜息を一つ。もう何度繰り返しているのだろうか。
アイツは昨年の冬、珍しく雪の降り積もった夜に、この町を去った。幼なじみとして十年近く付き合いがあったにも関わらず、行き先さえ聞けなかった。車が雪に跡を残し、去って行く姿だけ、今も覚えている。
「…終わった、か。」
クライマックスを終え、夜空には残された煙が薄く広がっていた。
虫の声だけが、静かに響く。他に何も聞こえないような花火後の不気味な静寂は、実はこれが初めてだったりする。いつだってアイツが騒ぐせいで余韻に浸る暇なんて無かった。
「……。」
気を紛らわせるために、かき氷を口に押し込んだ。
「やっぱ…」
無理矢理飲み込んだそれに痛みを感じて
「甘すぎるって。」
思わず顔をしかめた。
溶けた初恋
(その甘さを思い知った)
(夏の夜)
ありがとうございます。