遺跡探索-3 「……いいもん持ってんじゃないですか」 レナードをほどほどにぶちのめした後、床に転がった奴をそのまま放置して、背負い袋の中を覗き込んだ。さすがというか、お目が高く、盗んでいた物は金になりそうな良いものばかり。いや本当、持っていかれる前に捕まえて良かった。 それでついあんなこと言ってしまったけど、そこ、チンピラとか言わない。 「これとか、何処から持って来たんです? 明らかにここで見つけられる物じゃないと思うんですけど」 とりあえず訊いてみたけど、ぶちのめされて不機嫌なあいつは応えない。 「……足から順々に氷漬けにすれば、従順になりますかね?」 「ちょ……本気かっ!?」 「さぁどうでしょう」 思わせ振りに応えて、本気でどうしようかとちらっとルーファスに視線だけで伺ったら、首を横に振られた。ちっ、駄目だったか。あ、でも、犯罪者だし拘束しなきゃいけないな。ってなったら、腕くらい氷漬けしても……。 「とりあえず、これ使え」 背後からロープが差し出された。用意がいいな。ちょっとがっかり。代わりに我慢できるくらいには痛くなるよう、きつく縛りつけてやった。 そうして情けない格好になった奴は、僕のことを睨みあげる。 「裏切り者。同業だった癖に」 あんまりに下らない台詞に失笑した。 「今は違うし、仲間じゃないし。まさか本気で助けてくれると思ったんですか?」 前に会ったときから、僕はきちんとこいつに敵意を示していた。それでわかんなかったんだとしたら、相当におめでたいな。 まあ、こいつにしてみれば、ちょっと僕を傷付けたくて言っただけなんだろうけど。でも残念ながら、僕はそんなに繊細じゃない。 「とりあえず、これどうしましょう?」 まさかこのまま放置って訳にもいかないだろう。 ルーファスは腕を組むと、やや躊躇って口を開いた。 「……外に連れてって、全員が帰ってくるまで見張るしかないだろうな」 信じられないことを聞いた。 「ええっ!? せっかく探索に来たのに!」 レナードを睨みつける。畜生、こいつがいなかったら、思いっきりこの遺跡を楽しめたのに。他の人が楽しんでいるのを横目に、こんな奴の相手をしてなきゃいけないっていうのか。 「俺が見張っているから、お前は行って来い……ってわけにもな」 お兄さんが甘やかしてくれようとするのは嬉しいけれど、 「いくわけないじゃないですか。万が一縄抜けされて、対処できます?」 「自信がないから言っている」 「……わかってたけど、使えない」 「聞こえてるぞ」 つーん、とそっぽを向く。ルーファスの実力は知らないけど、きっと事実には違いない。これがリズやウィルドだったら良かったのに。 それからレナードのことをもう1回睨みつける。一瞬殺してやろうかと考えたけど、さすがにそれは行き過ぎだと僕も思うから止めておいてやろう。 無駄な抵抗をするレナードを蹴り飛ばし、僕らは泣く泣く隠し部屋を後にした。 外に出て、入り口に通じる階段に腰かけ、そこで短ーい探索時間で見つけた品と、レナードが盗んだ品を見ることにした。 レナードは、見えるところにちょうどいい石柱があったので、そこにつないでおいた。草原が広がるシャナイゼ地方南西部。雨季も過ぎて暑さ感じるなか、降り注ぐ陽の光に晒されているわけである。哀れ哀れ。 因みに、僕らの居る場所はちょうどよく日陰になっている。持ってきた水筒の中の冷たいお茶も美味しい。 「水くらい寄越せ!」 ポーチから〈魔札〉を1枚取り出して見せた。これで僕がなにを考えているかよーくわかるはずだ。 「氷柱でもしゃぶってます?」 「この、クソガキ!」 うるさくてムカつくので、頭の上に撃ってやった。 「……苛めすぎだ、お前」 ルーファスが半眼を向けてくる。やっぱりルーファスはルーファスか。 干からびられても困るので、奴の持っていた水筒の中身を無理矢理飲まし、水の術で頭からずぶ濡れにしてやった。しばらくは気化熱で涼しいだろう。 さてさて、取り上げた背負い袋の中から遺跡で盗んだ物と思われる物を取り出して分類していく。金目の物っていうとだいたい宝飾品だ。貴金属や透明な石ばかりが現れる。壺とか絵とかも高いけど、あれは持ち運びには不便だから、普通は盗まない。 「危ない物が混じってますね」 取り出して3つ目といったところで、早速物騒なものが見つかった。 「そうなのか?」 「まあ、なんとなくですけど」 ルーファスの前に指輪を翳してみせる。酸化してだいぶ黒くなっているけど、銀製の指輪だ。細いから女性もの。オニキスのような黒い石が目を引く。 「これとか、呪いの品ですよ。黒魔術とも違う、正真正銘の呪いの指輪」 なんの呪いかはわからないけど。 見た目はただの指輪のはずなのに、とても執念を感じる。上のほうにあったってことはこの城にあったものなんだろうけど、領主と隠された愛人の愛の巣になんだってこんなものがあったのやら。もしかしたら、ただの泥沼話じゃなかったのかもしれないな。 「術式もないのに、よくわかるな」 さすが専門家だ、と感心された。今日はルーファスに褒められてばかりだ。きっと彼の中で少しは僕の評価が上がったに違いない。 「宝探しの経験は伊達じゃないですから」 気配でわかります、なーんてね。宝探しやら魔具技師の修業やらで目を養った結果だ。 次から次へと金品が出てくる中、さらに3つほど危なそうなやつが見つかった。さすが魔術のシャナイゼ、いろんな意味で凄いな。 それにしても、盗品の数が20を超えるとさすがに呆れてくる。小さいものばかりだとはいえ、よくもまあこんなに持ち運んでいたものだ。そのくせ、鞄に放り込んだだけなんだからいただけない。これじゃあ傷つくだろう。 持ち帰るときは大事にしてやらないと、と思いながら背負い袋に手を突っ込む。そろそろ軽くなってきた。 「これは……」 引っ張り出した腕輪は、先程の指輪とは比べ物にならないくらい不吉な予感がした。ルーファスもこれが危ないものだとわかったみたいで、その顔に緊張が現れる。 「200年前の物だな」 魔術とか、合成獣とか、良いことも悪いことも盛りだくさんだった頃の物で、こんなに嫌な予感がするもの。……危険物の可能性が高いな。 慎重に地面に置く。他の装飾品と並べてみると、その腕輪がますます異彩を放っているのがわかった。 「……どうします、これ」 こんな見るからに危ない物、迂闊に扱えない。できることなら遠くに放り投げてしまいたいくらい不気味なのに、レナードはよくこんなものを持ってたな。鈍いのか? 「知ってそうな奴にに任せるのが一番かもな」 てことはジョシュアたちか。あの研究室は少人数とはいえ、精鋭がそろっているからな。使い勝手が良くて助かるというか、なんでも出来過ぎて嫉妬するっていうか。 それは良いとして、どうやって運ぼうか。これは魔具であることは間違いないから、迂闊に魔力に晒されるようなところには保管できない。だから〈魔札〉の入ってるポーチは却下。かといって、鞄も今回の探索のための物がいろいろ入ってるから怖い。 どうしようかと思案していると、城の中から誰かが出てきた。 「2人とも早いね。なにしてるの?」 〈青枝〉の先輩である、ルーファスと同じくらいの歳のその女性は、きょとんとした顔でこちらに近寄ると、床に広げた盗品を覗き込む。 「あれ? これって」 その人は、まさに今扱いに困っていた腕輪を拾い上げた。 あまりに自然に拾い上げるので、止める間もなかった。 「馬鹿!」 「迂闊に触るな!」 僕らが慌てたのは言うまでもない。 危険物だって見たらわかるだろう。いや、見なくても遺跡探索をする身なら可能性くらいは考えておくべきだ。全くなんて心臓に悪い……なんて思っていたら。 腕輪が禍々しい光を放ちだした。 [小説TOP] |