dusk. | ナノ




「メリークリスマスこんばんわー」
「…何やってんだお前は」
「あ、こんな所にいた。沢田さんこそ何やってんですか事務所でこんな遅くまで、もう日が変わりますよ?」
「おい」
「今日天さんちでパーティーだって聞いてたのに、いざ覗いて見たらいないもんだからかなり焦ったじゃないですか」
「おい聞いてんのはこっちだ、"こんな遅く"にお前はなんて恰好でなにやってんだ!この馬鹿!!」
「えっ結構本気で怒鳴られてるごめんなさい!?」
「…」
「ミニスカサンタはお嫌いでしたか?」
「そういう話じゃない」
「あ、なんだよかった…いや、浮かれたかっこですみません、今日は一日これでケーキ売ってたんですよ」
「…バイトか?」
「そうです、一日限りの短期バイト。寒い中ミニスカでクリスマス一日拘束な分お給料いいんですよ。しかも即金、さらに余ったケーキと衣装のオマケ付き」
「…」
「はい若い衆の皆さんお仕事お疲れ様でーす帰る前にケーキどうぞー」
「配るな!って、こらお前らももらってんじゃねぇ!」
「いいじゃないですか、お仕事頑張った良い子にささやかなプレゼントです」
「ヤクザの事務所に良い子はいない!」
「沢田さんの分もありますよ?」
「だからそういう話じゃ…!…もういい、配り終わったら解散…」
「はい許可いただきましたー。カットケーキで申し訳ないですけども、持ち帰り用の箱もありますよ、こっちがチョコで…ん?サンタさんと写真?いいですよ」
「却下」
「あ、却下だそうです…えー、ええとほら、一つずつと言わずどんどん持ってってください!行き渡りました?では解散ーお疲れ様でーす!」
「なまえ、お前は残れ」
「あっやだ怖い目が怖い私も帰る!」
「…何だ、お前ら見てるんじゃねぇ、解散だ!さっさと帰れ!」
「よ、よいクリスマスを〜〜」
「…」
「…沢田さん、何かかなりご機嫌悪いですね」
「…」
「あの」
「言いたい事は三つだ」
「は、はい」
「こんな遅くまで子供が外をフラフラするな」
「う」
「仕事着だったにしてもいつまでもそんな恰好でフラフラしてるんじゃない、風邪ひくだろう」
「うう」
「もう少し危機感を持て、年頃の娘が深夜にそんな肌見せて一人でフラフラして…」
「なんかそれじゃ私フラフラしすぎじゃないですか!?」
「返事!!」
「はいごめんなさい!!」
「ったく、何がメリークリスマスだ…」
「…天さん達の所、行けなくて残念でしたね。今日お休みって聞いてましたけど、急なお仕事だったんですか?」
「まぁな、若いのがちょっと面倒起こして、その後始末だ」
「それでご機嫌斜めと」
「…とにかく、説教は終わりだ。明日学校だろう、送ってやるからさっさと」
「そうですね、さっさと天さんちに合流しましょう、どうせ朝までやってる筈です」
「…少しは反省の色と言う物を見せろ」
「だって、バイト後に私もパーティー出るつもりだったのにー!」
「だからなんだ!覗いてきたんならそのまま参加してりゃあよかっただろうが!」
「〜だって!」
「…」
「…っだって、…プ、プレゼント……っ」
「…待て、泣くな、分かった、聞くから泣くな…、プレゼント?」
「うう、もっとスマートに渡そうと思ってたのに…、これ」
「?」
「ネクタイピンです、クリスマスプレゼント」
「………短期即金」
「あぁもうバレた!だから天さんちでどんちゃん騒ぎに紛れて自然に渡そうと思ったのに!」
「お前なぁ、それでバイトか!それにしたってだな…!」
「なんですか、プレゼントは買えるし、もらった大量のケーキ持ってサンタ衣装で登場したら盛り上がるだろうし、完璧な作戦でしょ!?」
「だからって、ここ来る前に着替えくらい出来ただろう!こんな遅くに出歩く理由にもならん!明日でも明後日でも会えるだろうが!」
「だって早く渡したかったし!みんなのとこにいるって言ってたのに沢田さんいないから、じゃあ沢田さんどこで誰と」
「…」
「…誰とクリスマスしてるんだろうって…」
「…残念ながらただの仕事だ。電話したらよかっただろう」
「鳴らしましたー!それはもう鬼のように鳴らしましたー!」
「嘘をつけ!着信なんて全然…!……あ」
「なんで携帯がハンガーのジャケットのポケットなんですか!携帯は携帯してくださいっていつも言ってるのに!」
「分かった、分かった泣くな」
「泣いてません」
「鼻が赤い」
「寒かったんです」
「…タイピン、ありがとうな、大事に使うから」
「………う、うぅ〜…っごめんなさいぃ〜…!」
「俺も怒りすぎた…悪かったな」
「いえ、お疲れの所押しかけて、すみません…」
「…今から行ってみるか、天達の所」
「! いいんですか!」
「俺達が行かないと、ひろが一人で大変だろう」
「あぁ…ツッコミ的な意味で…」
「よし、事務所閉めるぞ、外出ろ」
「はーい!」
「はぁ、しかしなんだ、どっと疲れたな…休みなのに駆り出されるわ、お前は何かと思ったら、バイトって…」
「しょうがないじゃないですか、学生さんはお金がないんです。別に校則でも禁止じゃないですし」
「いや、そうじゃなくて…お前今日の集まり、途中参加って言ったそうだな、用事で遅くなるって」
「? えぇまぁ、バイトの事は伏せとかないとサプライズになりませんから、用事とだけ」
「天と嫁さん達がな、『クリスマスに用事ってなんでしょうね〜?』ってニヤニヤと」
「あは、やだな天さん達、すぐそういう…、ん?」
「施錠良し、と。車で行くぞ、忘れ物ないな?」
「やきもちですか?」
「…お前と一緒にするな、保護者的な意味で心配だっただけだ」
「デスヨネー。はーまったくお母さんは心配性なんだから…」
「誰がお母さんだっ」
「あはは、ねぇねぇ沢田さん、サンタ服これどうですかね?似合ってます?」
「あぁ似合ってる似合ってる。なまえサンタさんのプレゼントは天のとこにあるから、大人しくついて来なさい」
「あーまたそうやって適当に…、プレゼント?」
「お前がこっちに来るとは思わなかったからな、事務所に向かう途中寄って預けたんだ」
「プレゼント…って、私のですか?」
「あぁ。…ん、荷物は後ろでいいな」
「え、あ、はい」
「シートベルトしたか?出すぞ」
「はい…あ!なるほどパーティー参加者みんなにプレゼント用意したんですか!流石マメですね!」
「は?いや、料理は作って差し入れしてきたが」
「それはそれですごい…え?じゃあそれとは別に?プレゼントですか?私に?」
「だからそう言ってるだろう、何びっくりしてんだ」
「いやだって、そもそも今日は天さんちにみんなで集まってご飯だって話があっただけで、沢田さんとは会う約束してませんでしたよね」
「そうだな」
「二人でプレゼント交換しようなんて話も全然なかったですよね?」
「………………そうだったか?」
「素!?」
「で、でもお前だってこうして用意してただろう!」
「そりゃ私はいつもお世話になってますし!て言うか好きですし!」
「好っ」
「あれ、いつも言ってますよね、好きです」
「いや、あぁ、いつも聞いてる」
「で、何故沢田さんは私にだけプレゼントをご用意して下さったのでしょうか」
「…」
「…」
「…」
「…」
「とりあえず、そのニヤニヤするのをやめろ…」
「すみません、安全運転に集中しつつも困った顔な沢田さんが可愛…面白くて」
「お前な!」
「あは!まー今日はこれくらいで勘弁してあげます。やーそうですかープレゼントですかー」
「はぁ…」
「…思うんですけど」
「?」
「直接約束もせず人様主催のパーティーでなんとなく会う、みたいな事してるから、諸々こういう妙な事になるんじゃないかと」
「…そうかもな」
「なので、来年のクリスマスは二人で会う約束、ちゃんとしませんか?」
「………考えておく」
「一年ありますしね。どうぞごゆっくりご検討ください」
「…なんだ、随分余裕ぶるな」
「だって沢田さん、それより先に差し迫った問題があるでしょう」
「問題?」
「プレゼント、天さんちに預けたんですよね?今頃すっかり出来上がっているであろう皆様が、さて黙って渡して下さるかどうか」
「あ」
「ふふ、まー冷やかされても私は嬉しいだけですけどね」
「…!」





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