dusk. | ナノ




「市川さん、起きてます?」
「なんだ、さっさと寝ろ」
「寝ようとはしてるんですけど、こう暑いとどうにも」
「無理矢理泊まり込んでおいて文句を言うな。扇風機そっちの蚊帳に置いてやってるだけありがたく思え」
「あーあーテステス、我々は〜エアコン無いとか意味が分からない〜」
「おい、固定するな、ちゃんと首振らせろ」
「いやぁ、旅行気分が味わえる純和風建築なお宅が近所にあって助かりました、やっぱり夏はこういうのが無いと」
「いきなり大荷物で押し掛けやがって…、こっちはいい迷惑だ」
「畳に布団、蚊帳に蚊取り線香、風鈴と扇風機…民宿にでも泊まってるみたいでいい感じですねぇ」
「チェックアウトは朝6時だからな」
「早!早いですよ!朝ご飯つかないんですか?ていうかもう二三泊くらい…」
「馬鹿言うな、日が昇ったら即叩き出す」
「うわー冷たい」
「暑いんだろ、ちょうどよかったじゃねぇか」
「…市川さんは抱き枕にならないんですか?」
「……暑さでいかれたか」
「いやいや、市川さん体温低そうだから、抱いて寝たら気持ちいいんじゃないかなって思って」
「冗談じゃねぇ、暑苦しくてかなわん」
「蚊帳がなかったら勝手にそっち行って試したんですけど」
「…でけえ蚊がいたもんだな」
「えー、蚊と一緒にしないでくださいよ」
「似たようなもんじゃねぇか、プンプン喧しいわ飯にはたかるわ、呼んでもねぇのにまとわりつくわ…」
「…ふわあ」
「途端にあくびか」
「うーん、市川さんのお小言は実にいい睡眠導入剤…」
「その眠気はお前、蚊取りが効いてきたんじゃねぇか」
「あはは、だぁから、蚊じゃないですって…」
「そうかよ…さあ、馬鹿言ってねぇで眠いんならさっさと寝ちまえ」
「……はーい…おやすみなさい…」
「…」
「また明日………」
「…」
「…」
「…いびきもさぞ喧しいんだろうと思ったが」
「…」
「…、……あぁクソ、むず痒いったらねぇな…」





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