「おい里美、起きろ」

 まどろむ意識の中達海の声が心地よく耳を打つ。

 「んー。あと五時間……」

 「長えよ」

 カーテンが勝手に開けられたらしく、太陽光線が瞼に直撃して眩しい。
もぞもぞと身動ぎながら薄目を開けて達海がいることを確認した私は奴に背中を向けて

 布団の中に潜り込んだ。

 ぬくぬくお布団最高ですよほんと。

 「起きろっつってんだろ」

 溜息まじりにそう言われるも、眠いものは仕方がない。あと、寒いのは嫌ですから。

 「起きないなら強行手段だな」

 反抗期の片鱗を見せ付ける私の耳に届いたそんな言葉。

 ギシ、とベッドが悲鳴を上げ、覆い被さってくる感じの気配に嫌な予感を覚えて私は布団から顔を出して振り返ろうとした。だが。

 「ふんぬぉー!」

 布団越しに口から鼻の辺りを圧迫してくる何か。

 「必殺、窒息。みたいな」

 そんな呟きが聞こえてくるけど、突っ込んでる暇はない。
 息苦しいのにも程がある!

 「――っぷはあ! 何すんのよ達海!」

 「よ。おそよ」

 口元を押さえ付けていた手を押し退ければ笑いを堪えているような、それでいて呆れまじりの微妙な表情をしている達海と目が合って抗議の言葉を投げ掛けると同時に声を掛けられた。

 なんでそんなバイオレンスなことを平然とやらかすんだあんたは。

 「窒息死するかと思ったんですけど!」

 「起きないお前が悪い」

 よくもまあぬけぬけと……と言いつつ私に反論出来ない部分があるのも確かで。

 「しかもおそよって……まだ七時過ぎじゃない。なんでこんな早くから来てんのよ」

 ひょこひょこと自己主張をしている髪の毛を撫で付けながら問い掛ければ、達海はベッドの端に腰掛けながら欠伸を一つ漏らしてこう言った。

 「だって昨日の晩わざわざ電話寄越して来ただろ? なんかあるなと直感したから早めに来たんだよ」

 なるほろ。それにしても来るのが早すぎではなかろうか。

 母さんはともかくとして父さんも朝から家に上げることに反対しないのかちくしょー。

 「それにしても年頃の女の子の部屋に普通男子を入れる? というか入る? わたしゃあんたの常識を問い質してみたいよ」

 「世の中の常識から逸脱しているお前にだけは言われたくない」

 むっ、失礼な。私にだってちゃんと良心とか両親とか老婆心とか持ってますよーだ。

 「老婆心持ってるとか……超めんどくさい奴じゃん」

 だから勝手に人の心の領域に土足で踏み込むなと何回言えば……日本家屋の象徴の一つでもある畳の上は土足厳禁ですよ。外国人の人々だってスリップルスをちゃんと履いてからお上がりになられるんだからね!

 「朝御飯は?」

 欠伸を噛み殺しながら私は起き上がり、自己主張をやめない髪の毛を押さえ付けながら問うた。

 「食ってきた」

 私につられて欠伸を漏らしながら達海は言う。眠いならもうちょい寝てくればいいのに。

 「んじゃ私も食べる」

 嗚呼眠い。
 そう思いながら達海を押し退け立ち上がる。

 休日はゆっくり寝てたいと思うのは私だけかしら? 我が家でそんな考えの持ち主って私以外にいないんだけどね。

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