渡す物が思い付かないなら訊いてみればいいじゃないという千秋の提案により、夜分の井戸端会議は一旦お開きになった。

 そんなあっさりと言われましても私にも心の準備というものがございましてですね、千秋様。……なんて、等間隔な電子音が流れる今となっては無意味なことを携帯に向かって呟いてみたりするわけですが当然言葉が向こうに伝わるはずはなく。

 「達海に電話ねえ」

 待ち受けに切り替わった携帯の画面を眺めながら独りごちる。

 犬と猫が寄り添って寝ているこの微笑ましい画像は達海がくれたやつだ。

 因みに私は断然猫派である。犬も可愛いけど、猫のあのツンがデレる瞬間が堪りませんのようふふ。

 もぞもぞと毛布を抱き寄せて丸くなりながらボタンを打ち、達海の携帯の電話番号を眺めた。

 ちょっと決心がつかない。

 「よし」

 発声をして無理矢理に踏ん切りをつける。

 言うことはまだ考えてないけど、なんとかなるでしょ。

 私は通話ボタンを押し、耳に携帯を宛がった。

 『里美か? 珍しい』

 数コールして出てきた達海はいつもの声音でそう言った。

 「夜遅くにごめん」

 達海と顔を合わせることなく話すということが滅多にないせいか、緊張気味な私の声は若干硬い。

 『なんかあったのか?』

 「ううん?」

 心配そうな調子になった達海の問いに私は即答で首を横に振る。

 それ以上は言葉が続かず、沈黙が降りた。
 長い長い沈黙。

 口を閉ざした私を促すことなく達海もじっと待ってくれている。

 いつもはぞんざいなくせに、こういう時に限って気を遣ってくれたり優しくなったりするからなんだか悔しい。

 「あ、明日バレンタインじゃん」

 『そうだな』

 やっとこさ口を開いた私の言葉に相槌を打つ達海。

 「達海さ、なんか欲しいものとかってある?」

 平静保ちつつも僅かに上擦る私の声。

 気付かれないことに内心安堵しつつ、思案でもしているのか小さく唸っている達海が何かを言うのを待つ。

 『別に。何もいらね』

 不意にぼそっと聞こえたのはそんな言葉だった。

 正直に言おう。里美さん怒ったぞー。

 「タツミンの馬鹿! もう知らない!」

 『は!? てかタツミンって一体――』

 達海に皆まで言わさず終話ボタンを押した私はふうっと一息ついて、すかさず千秋のとこの電話番号を押した。

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