『明日はバレンタインだけどさ、あんた彼氏に何あげるの? というかあげる物決まってる?』

 やっぱりというかなんといいますか。

 千秋が予想通りの問い掛けをしてきたのはまだいいとして、何と返せば良いか思い付かない私は携帯を握っていない方の手でベッドのシーツを摘みながら「ちいちゃんはあっくんに何あげんの?」と問い返した。

 『私? 勿論私そのものがプレゼントに決まってるじゃない』

 「……はい?」

 何だ今さらりと吐かれた台詞は。

 里美ちゃん子供だから分かんなーい!

 『何真に受けてんの? 冗談よ冗談。ちょっとしたアメリカンジョーク』

 そう宣うた千秋様の声は微塵も震えていない。

 というか最近のアメリカ人はそんなジョーク言うんですか。多少は英語出来るつもりだったから一度くらいはアメリカに旅行行ってみたいなー、なんて思ってたけど里美さんなんだか挫けそうです。価値観の違いって恐ろしいわ。ノーボーダーなんてよく謳ってるけど実際問題無理なんじゃない?

 『……里美?』

 「ぐぅあっ! は、はい!」

 どこかに意識を飛ばしていたらしい私を千秋の怪訝げな呼び掛けが現実に引き戻す。

 『それで、あんたは何をあげるのよ』

 息つく暇もなく問われ、一瞬言葉に詰まる私。

 心なしか千秋様の声が苛立っているような気が。

 「えっと、それが……そのう……」

 『決まってないんだ?』

 うじうじとする私に痺れを切らした千秋は言おうか迷っていた言葉の続きをあっさり紡いだ。

 「……うん」

 馬鹿やらかして凄い剣幕で先生に怒られた時みたいにしゅんとなって認める。こればっかりは認めざるを得ない。

 電話越しに盛大な溜息。

 勿論我らが美少女千秋様のだ。

 『あんた馬鹿ぁ?』

 ……あれ、なんかどこかで聞いたことのあるような台詞。

 「馬鹿と言われてもねー。忘れてたんだもん!」

 女は度胸! ということでない胸を張って威張ってみる。

 『そこ、開き直るな』

 「すんませんした」

 ドスのきいた低い声で玉砕されるに至るまでに掛かった時間、約一秒弱。

 言葉の暴力は反対ですよ千秋様。

 『なんか言った?』

 「な、なんでもないです!」

 だから人の心を許可なく読まないで下さいってば。

 皆してどこで読心術を学んでくるのかしら。私が分かり易いだけ? そんなバナナ……古いな。そんな馬鹿なっ!

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