「……着いたはいいが、何を買いに来たんだ?」
スーパーの入り口にいつも置いてある深緑色の籠をさりげなく達海に持たせて中の生暖かい空気に顔を顰めていると、横からじとりと文句ありげに視線を寄越してくる奴が問いかけてきた。
買い物といったら男手が必要不可決なのに、何文句たらたらしてんのやら……情けない。
「んー……」
まず目に入る照明で色好くされた緑黄野菜を眺めつつ、私は母に頼まれた食材を思い出そうとする。
「――忘れた」
「おい」
土の全く付いていないラップがかけられた大根を手に取り、それをじっと眺める。
「お母さんの足」
「待てよ」
ボソリと呟かれた私の言葉にすかさず達海の突っ込みが入った。
いやだって……小学生くらいならきっとそう思うこともあるよねえ?
「お前の脳内構造は小学生並みかよ」
あらま。また独り言になってたのかしら。いやーんもう照れちゃうじゃない。
「大根持ったままにやけるなよ不気味だから。あと、その大根」
入れるなら入れろ、と達海は籠を私の方に突き出してきた。
でもなあ……ホントに何頼まれたか忘れちゃったし。
「忘れたんなら笑って誤魔化せ。俺が『おでん食いたい』って言ってたからとかならおばさんも許してくれるだろ」
目線を逸らした私から何かを酌んだのか、今日一番の饒舌さで、しかし相変わらずむすっとした表情でそう言った。
「そっか、おでんかー!」
それは名案かもしれない。今までの達海の提案の中では特に。
感心しながらなるべく痛んでなさそうなインゲンやらピーマンなどを選び、達海の籠に放り込んでいく。
「……里美」
「ん?」
キムチ鍋の素と糸こんにゃくと豆腐を籠に詰める私を呆れ半分、諦め半分に眺めつつ達海はこんな疑問を口にする。
「何を、作んの」
心なしか「何を」の部分が強調されてるなと思いつつ、私は胸を張って答えた。
「おでんに決まってるじゃない」
「あー……さいでっか……」
遠い目をして呟く達海。何よ、目に入った物を放り込んで何が悪い!
「闇鍋でも作るのかと思った」
のんのん。甘いな達海君。
「非常に残念ながらお母さんが作るのよ。そこを失念されては困るわね! しかも、自分の母が作りそうなものを予測して買ってくるのが最近の娘の常識よ」
「その前にお前は携帯を持ち歩いておばさんとコンタクト取れるようにしておけよ」
「コンタクト外れたら大変じゃない」
私の言葉に溜め息をつく達海。一瞬の間。
「わざとだろ。特に最近」
「いいえー、条件反射ですよー」
目に入った魚肉ソーセージも入れながらさりげなく達海から籠を奪い、私はそのままレジに並びに行った。
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