幾時間過ぎただろう。

 私達はテレビをぼんやり眺めながら他愛もない会話をして、今に至る。

 「夕飯の買出しにでも行って来ようかな」

 「いってら」

 そんな会話の後、ちょっぴし覚悟を決めて私はこたつから足を出し、立ち上がった。

 うぅ、こたつのぬくもりが名残惜しい……。

 「おばさんのおつかい?」

 寝そべっていた達海は私に顔だけを向け問い掛けてくる。お前はどっかの親父か。

 「そうそう」

 おばさんとは私の母のことだ。母さんってばすっかり達海には甘くってねえ。

 ちゃっかりこいつに餌……じゃなかった。晩御飯とかあげちゃってんのよー。モー、ムカつくったらありゃしないわ。

 「牛になるぞ」

 「なにおう!?」

 私の心の呟きをどこまで聞いていたのか、それとも私が唸っていただけなのか。

 はっ……! まさかまた私独り言を言ってた!?

 「……誰に向かって話してるのか敢えて言及はしないが……。キモイからやめとけ」

 淡々とした口調で達海はテレビに顔を向けたまま言う。

 「不審者とは失敬な」

 「誰もそんなこと言ってねぇよ」

 わざとボケをかませば即座に返ってくる奴のツッコミ。

 おぉ、これは……。

 「……私達、もしコンビ組んだらエムワンとかいうので優勝出来るかも」

 「無茶言うな」

 むう。思ったことを口にしただけじゃないかー。

 不貞腐れてみれば、ようやく達海がテレビ画面から目を離して突っ立っている私に気だるそうな顔を向けた。

 「早く買い物行かねーと、おばさんに叱られるんじゃないか?」

 ほほう……お主は人の家に上がり込んでおきながら猶住人をパシる気か。

 その時、私の脳内で「ぷつっ」とありきたりな効果音が鳴った気がした。

 「――あんたも来いっ! 全く……お母さんはこんな体たらくなおのこに育てた覚えはありませんよ!」

 「いや、育てられた覚えはないし。お前みたいな親とか……全米が泣くぞ」

 全米って……アメリカ人は泣き虫なのかしら。私ならその程度じゃ泣かないけど。

 ……じゃなくて! 今、ボソッとかなり酷いこと言われた気がするのは気のせい!?

 「人の首根っこ掴んで引き摺る奴よりはだいぶ俺の方がましだろ」

 ねぇ、読者さん。と見事に私に引き摺られながら空間に問いかける達海。「読者さん」て誰よ。うわあ……遂に達海さんまでイカれてしまったのね。なんてことでしょう! と童話風に言ってみるテスト。

 「あんたってそんだけ毒舌なのになんで世の女の子は騙されちゃうのかしらね」

 「そんなもんだって」

 達海を引っ張る腕が攣りそうなので、奴を立つように促しながら嫌味の一つでも零してやる。笑いながら軽く流されたけど。……うー、なんかくやしい。

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