はい!やってきましたこの季節!
文化祭だよ『ぶ・ん・か・さ・い』!
大学受験で目、血走らしてる人以外ほとんどの人が参加する(ほぼ生徒全員)一大イベント!
ちなみに! 私のクラスは喫茶店をやる!
題は『変人共の集ひ』。
強制決定をした幻の委員長は、矢部 千秋(ヤベ チアキ)さん。
通称『ちいちゃん』。
眼鏡に、染めていない髪、という典型的な優等生だが、(自)他共に認める変人である。
言い忘れていたが、修学旅行が終わってすぐに夏休みに入ってしまったので、あの新幹線での一件以来一度も桶川とは話していない。
…というか『決別宣言』をしたのは私なんだし、あいつのことを考えているということ事態反則なんだけど、妙に気になってしまうのだ。
なので・・・
『あっ里美ちゃん(私のことだよっ)。桶川君と明日受付よろしく』
……なんてイインチョーに言われた時は、めちゃくちゃビビリましたとも。はい。
相変わらず席替えしても席が近いのでふと気になって桶川を見れば、あいつはどこか悟ってしまったかのような顔で、ちいちゃんから説明を受けていた。
そして当日。
必要最低限の言葉以外は交わさず、得意の営業スマイルで受付をしていくと、じゃんじゃんカモ…じゃなくてお客さんが入って来て、うちのクラスは大儲けした一日だった。
「おい、赤坂。」
「はい?」
一日目の文化祭が無事に終わり、細かな後片付けも終了して皆が帰り始める頃、桶川が珍しく話しかけてきた。
どうせ明日の話だろうとは思ってはいるのだが、不覚にも緊張してしまう。
くそう。桶川ごときに。
心の中で悪態をついて気持ちを落ち着かせると、真っ直ぐに桶川を見上げた。
「あの……さ。ちょっと言いにくいんだけどさ。」
「うん。」
だから何。はよ言わんかい。
という言葉は呑み込んで、気長に桶川が言うのを待つ。
その桶川は言葉通りとても言いにくそうに顔までしかめて、視線をそわそわさせている。
「後夜祭・・・付き合ってくれるか?」
「温野菜?」
「………………」
きまった!
心中でガッツポーズをしつつ、うな垂れた桶川に手をパタパタ振りつつ言う。
「いや、冗談だって! …別にいいけど、女除け?」
「違うが。」
私の問いに、復活を果たした桶川は即行で否定する。
「………。じゃあ。なんで?」
しばし考えたが結局思い浮かばず、そう訊くと、呆れた口調で
「いや。いいよ。」
と疲れた口調で言われてしまう。
「お前、変人のうえに天然だよな。」
「?」
「じゃあ、また明日。」
「おう。」
わけが分からないまま、謎の台詞を残して桶川は帰って行った。
翌日。
二日目も無事に終わり、トラブルらしいトラブルも起きず、後夜祭が始まる時間となった。
やはり、高校生活最後の…ということもあって、一、二年よりも圧倒的に三年が多かった。
後夜祭は、二酸化炭素大放出のキャンプファイヤーがメインとなり、フォークダンスなどを踊ったりするなどといった普通のものだ。
また、カップルなどがイチャイチャ(?)する時間でもあり、周りは男女のペアばかりだった。
そして、私が違和感なくここにいられる理由というのが、この隣で
「おー」
とか呟いている意外にノリがよい桶川のせいである。
異議を申し立てるなそこの君!
私はこいつの『女除け』を頼まれたから(違ったっけ?)いるわけで、もしこいつの申し出がなければ私は妹とウハウハだったのだぞ!
(なんかアブナイひとになってるし、私。)
「で、どうすんの桶川。フリーであんたを狙ってる人達はもう帰っちゃったみたいだし、やることもなさげだし、このままふらぁ〜っと帰っちゃう?」
これまでのように桶川の隣にいることが妙に嬉しくて。
でもこいつには悟られたくなくて、いつもの口調で問いかけると、
「そうするか。」
と桶川はアッサリ同意した。
……昨日あんな思い詰めたような表情を浮かべて言ってた割に、なんかあっさり退いたな……拍子抜けした…
いや、なんかあいつに期待してるわけじゃなくてね?
…ってこう言うと期待してるみたいじゃん。
私の思考が変に加速してきたところで、ふと我に返って辺りを見渡せば、二年以上歩いた通学路の景色と、頭上のまだまだ明るい空に、隣にいる桶川が目に入る。
彼は、私の視線に気がついて、ん? とか言いながらこちらを向いた。
その表情がなんとも言い難くて。
少し赤みが増してきた日の光があたり、不覚にも
「様になってるなぁ」
と呟いてしまった。
「何が?」
「ぎゅえっ!」
ああああ……また謎の生物の鳴き声が…………
「相変わらず変な声上げるな、お前。
…まぁお前が森に入って行った時のあれも面白かったが。」
その時のことでも思い出しているのか、桶川は僅かに頬を緩める。
…あの時あいつは楽しそうでもなかったぞ?――――って………
「待ておい。」
「なんだ?」
急に足を止めた私を不審な顔で見つつ、桶川は数歩先で立ち止まる。
「何であんたが同じ道歩いてんの?」
驚きとなんかが相まって知らず不機嫌な口調になる。
何だそんなことか、とでも言いたげな視線を送り、小さく肩をすくめた桶川は当たり前のように
「俺の家、お前んちの真向かいだぞ?」
知らなかったのか? と付け加えて、うつむく私の顔を覗き込んだ。
……………………プチッ
「そういうことは早く言えぇぇぇぇっ!」
ガスッ!
……はぁっはぁっはぁっ………ふー。
クリティカルヒットだぜ、兄ちゃん。
俺、仇討ったよ……
息を整え、妙な充足感に浸りつつ、空を見上げた。
茜色に染まった空と雲が、なんとも言えないコントラストを醸し出している。
「ねぇ桶川」
「なんだ」
横に並んで桶川の顔を覗き込めば、相変わらずこいつはポーカーフェイスだ。
そんな些細なことでムカつきつつも、にっこりと笑顔を装って、こう問いかけた。
「なんで私を誘ったの?
あんたと今日共に過ごそうと手をこまねいて待っていた馬鹿共がうじゃうじゃいたのに。」
「『馬鹿共』ね……」
乱雑な物言いに桶川は苦笑いを浮かべる。
そして曰くありげな微笑を浮かべると
「なんでだと思う?」
そう言い私の顔を見た。
返答を待っているようだ。
「い…いや、知らないし。」
桶川の顔を見て、不思議と顔が熱くなってしまうのを自覚しつつ、原因が分からないのでどもりながら答えると、不意に桶川の手がおでこにあてられた。
予想もしない出来事で、一瞬ビクリ、と体を震わせる私。
そんな異変を知ってか知らずか、「熱でもあるのか?」と桶川はさらに顔を近づける。
無意識にまた体温が上がる気配がした。
これは…まさか………
「あっ……あんたのせいだからねっ!」
ダッ!
今更になって自覚してしまったこの気持ちを誤魔化すため、私は家へ一心不乱に走る。
……この気持ちに負けてしまわないように。
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